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                                    異空の神

第1巻




  第2章

  異空転移


 エリザベス


翌朝目が覚めるともう8時半を回っていた、
何故か9時間も眠ったようだった。シャワーを浴び、習慣でひげをあたり、
丁度よく伸びた髪を整えると下着を新しいものに変え、
昨日の晩と同じ服装でエレベーターに乗り1階に降りる。
バッグはクロゼットにおいてきた。


ホテルに泊まるのに全くの手ぶらでは怪しまれると思って
買っただけなのだからどうでもいいと思っていた。
一階の受付カウンターには昨晩とは違う若い男が立っていた。

鍵をわたすと男は昨夜無意識のうちにブライアンが記帳した宿帳をみながら
「MRラウル・・・もう一晩の料金をいただいていますね
、昨夜は通りが騒がしくてよく眠れなかったのでは?」
「なんでも酔っ払ってその辺のバーにトラックで乗りつけた馬鹿が
車をひっくり返すようなひどい運転をして
そのまま逃げたということで、
パトカーやクレーンが来て大騒ぎでしたから、
トラック自体どこかで盗まれたものらしくて誰に責任があるのかも全然わからないそうですよ」
ブライアンは昨晩の騒ぎがとんでもない馬鹿な酔っ払いの引き起こしたもので
それほど不思議な事件とも思われていないことを知り奇妙に安心していた。

「ともかく行動しなければ事態は進まない」
「こんな時一人で立ち寄っても不自然さのない場所で朝飯にしよう」
ブライアンはそろそろ動き始めた何一つ異常とは思えない朝のニューヨークの街を
歩きはじめていた。結局ややクラシックな店構えの軽食レストランを見つけると、
外の通りが見渡せる奥の二人用テーブルに腰を下ろし店を見渡した。

オフィス街の朝食スポットとしてはまあ高級な方と思えるその店には、
人声とコーヒの香りが溢れていた。

「特殊任務でニューヨークに来て目立たず朝食を摂るとすれば、
やはりこんな具合かもしれない」ブライアンの脳裏にそんな想いが浮かんでいた。
朝食を終えると気持ちがハッキリとかたまりはじめブライアンはタクシーを止めた。
「良くわからないけど、ロサンゼルス行きの飛行機に乗りたいんだ。
JFKだかラガーデイアだかどっちでもいい、便が多そうなほうに連れて行ってくれないか」
ブライアンの大声にドライバーも「了解おまかせあれ!!」と車を走らせる。

空港に着くと、ポケットからこれ位で足りると思えるだけの札を予め手にしたブライアンは
ロビーを見回しアメリカンエアーのカウンターに飛び込んだ。

「カリフォルニアに戻るんだが、ひどい話でこちらで財布を盗まれて
友人からキャッシュを借りたんだ、LAXまでの航空券、・・・
何処の便でも一番早く到着するのがいいんだがお宅の便は、
あとわずかで飛ぶみたいだけど乗せてもらえるかい」


若い女性事務員がまるで操られているようにカウンター越しにチケットと搭乗券を渡し、
料金の請求もせずぼんやりしている。

ブライアンはキャッシャーに表示された金額を読み取ると現金を置き

あたふたとコンコースを進んだ。
「貴方が最後の乗客です、間に合ってよかったですね」

という言葉に迎えられ300人乗りの飛行機の最後尾の座席におさまった。
機体の後方にいくにしたがって狭くなっていくため最後尾の座席は左右二席ずつしかなく
ブライアンの座席は前方に向かい右隅だった。
どうやら最後尾の4席にブライアン一人で誰にも邪魔されず
LAXまでの飛行を過ごすことが出来そうだった。

安定した飛行に移るとブライアンはこの時間を利用し出来ることをしておこうと考えを巡らした。
ロサンゼルスに到着してからの行動は一応きめたつもりでいた。

「昨晩の実験の続きをやらなければ、もっと状況を知るように何かをやるべきなのだ」
そんな想いのブライアンは何気なく
救命胴着のつけ方というパンフレットを手に取っていた。
パンフレットを意識のベールで包み込む、
そして同じものがその上に複製され出現するよう念じてみる。
いとも簡単にそれが出現する。
ブライアンの口から驚きと納得のため息が漏れる。
1枚をもとのポケットに戻し、今度はモデルになっているスチュアーデスの顔の部分が
機内で丁度こちらを向いて歩いてくるスチュアーデスの顔に変わるよう念じてみた。

スチュアーデスはどこかアマンダに似ているがもっと何か
ブライアンの胸に訴えかけるような個性と魅力を感じさせたのだ。

まるで何事も起こらなかったようにパンフレットの顔はすり替わっていた。
ブライアンは一瞬心臓が締め付けられるようなゾクゾクする感覚にためらいを感じながらも、
「ちょっと」と手招きし、「これ君がモデル」とパンフレットを差し出して見せていた。
以外なことに彼女はそれほど驚く様子も見せず
「ほんのこのあいだ撮影したばかりでまだ配布されてない筈ですのに」と
それほど驚く様子も見せず「良く気がつかれましたね」というと
改めて、ブライアンを見やる。

その顔がこわばっていくのがわかり、
彼女はそのまま身を翻すようにして前方へ行ってしまった。
なかなかの美人だった。砂色と黄色の混ざった金髪でブライアン好みのバスティだった。
ウエストのくびれから豊かな腰への曲線も申し分なかった。
実験を挟んでこの3日ほど忘れていたブライアンの男が急に目を覚まされた感じだった。
「随分そっけないじゃないか、たったいま君を僕のとりこにしてやってもいいんだぜ」
と心の中でつぶやいている自分に「まさか、」という閃きのようなものを意識し、
向こうへ歩いていく彼女から目をそらした。

「今は浮ついた気分になっていい時ではない」「自分が今置かれた情況を少しでも把握しておこう」

と意識を転換し、なにかこの先の行動のヒントになるものはないかという気持で
前席背中のポケットから取り出した、ショッピングガイドのような雑誌をひろげページをくっていった。

突然耳元で「私エリザベスです」という声が聞こえ、
はっと顔をあげると
先ほどのスチュアーデスが、なかばブライアンのほうにかがみこむように立っていた。
ブライアンを見やりながら「失礼ですがどこかでお会いしていましたかしら、私もの覚えが悪くて、
もしかして大変失礼をしてしまったのかと気になってお声を掛けさせていただいたんですが、
あの撮影のときの広告会社の偉い方かしら、」穏やかにそう言いながら彼女の表情は、
明らかになにかショックを受けている様子に見えた。
そして気を取り直したように「LAX到着後のスケジュールは特にありませんの、
もしお役にたてることがありましたらなんでもおっしゃってください」

というとブライアンのももに強く手を押し当て他の乗客や乗務員の目線に気を配るようにしながらも、
心残りという仕草をしてゆっくりと前方に歩いていった。

残りの飛行のあいだエリザベスのことを頭から振り払い
もう一度気持ちを取り直すのには努力が必要だった。
「このあと彼女とどうなるのかはLAX到着後だ、」
と言い聞かせ今後のことに神経を集中させていった。
ほぼ間違いがなくなったのは、ロサンゼルスに到着した後、
行動に移るために必要なレンタカーの調達に必要になる運転免許証は
いつでも手にすることができるということだった。


他人の免許証を複製し顔写真と内容を入れ替えればいい・・・
多分埋め込まれたICチップを読み取り貼られている写真を検索するだけの装置を
導入しているオフィスはまだないだろうし、
警察の特別コードがなければ開くことはできない筈だった。
サンクレメンテ海岸のアパートメントを確かめに行くため、
レンタカーを借りることは可能かもしれない・・・
しかし次の問題としてレンタカーを借りること自体、
現金でという訳にいかない場合も考えられた。

まだ、クレジットカード、そのための銀行口座、絶対問題が生じることのないアイデンティティ、
戸籍、住民票、そして最後にはそれに基づく住まい、と必要なことが次々と頭に浮かんでくる。

現金を手に入れることは、いくらでもどうにかなりそうな気がしていた。
どこかの銀行で大量の現金を身近にすればその複製をつくることができる、
同じNOの百ドル紙幣が何年かさきにあちこちで見つかることがもしあったとしても
それは問題としてブライアンに降りかかることはない。
何かを言いたてる人間が現れても、その人間の頭さえ操れそうなのだから。
そしてブライアンがハットしたのはジャケットの内ポケットにしのばせていた銃だった、何もチェックされなかったのだ。

今の自分に不都合なことは自動的に回避されるのか?機械の故障だったのか?
ブライアンは懐の銃を「すぐ後ろの、トイレの棚のなかに移送したい」と念じてみた、
すると、トイレの中の様子が訳もわからず意識に浮かび、ここの何処なのというようにとどまる。
よしそこの棚の中と念じるとさらに棚の扉の中の様子が浮かびほとんど
トイレットペーパーでいっぱいになっているのまでわかるのだ、もどかしくその上の僅かの空間に銃を押し込むように意識すると
胸の銃の重みが消えていた。

ブライアンはすぐ席を立ち後ろのトイレに入った。
しっかり錠を掛け棚を空ける、積み上げられたペーパー類の上に銃は押し込まれていた。
銃をジャケットの内ポケットに戻すと、
突然、機内アナウンスが気流の悪化を告げ、シートベルト着用を指示する。

ブライアンが席に着くと待っていたように機はがたがたと揺れ、
シャッターを開くと厚い雲が機体を包んでいるのがわかった。
こんなところで間違っても飛行機事故にあうわけにはいかない、
ブライアンは機体のまわりを大きく包み込み静かに気流を拡散させるイメージを描いてみた、数秒で揺れはおさまり、機外に青空が広がっていく、まさかと思いながらも半分は、もしかしたら、
という気持ちだった。
ブライアンの脳裏に突然次の実験のアイデアが浮かんだ。周りの静かさ、空いているトイレを確認すると、
今度は静かにトイレのなかに自分自身を移送するよう念じて見る、もうそこはトイレの中だった。
ブライアンがLAX(ロサンゼルス空港)についたのは、
西部時間で丁度ランチタイムだった、ゲートを抜け、ロビーのベンチで、
これからどうしたものかと考えていると、エリザベスがこちらの方へまっすぐ近づいてくるのが目にはいった。
優雅な足取りでブライアンのすぐそばまでやってきたエリザベスが・・・・・
「MR ラウルとお呼びして・・よろしいんです・・・ね」
と言うと、いとも自然にブライアンのすぐ脇に腰をおろす、軽くブライアンの膝に手をやりながら、
「飛行機の中で、私、とても恐い顔をしたのでは?」
「実は、いきなりですが、
もしレンタカーでも借りるおつもりなら私の車でどちらへでもお送りしたいと思ったんです」

「会ったばかりの男にそんなことを言って恐くありませんか」
ブライアンは次の言葉を待つつもりで答えていた。
「貴方は恐い方かしら、絶対そんなことはないという気がしますの、
それにもし恐い方ならどんな風に恐くしたいのかおっしゃってくだされば、
お望みのようにするつもり、今持っているキャッシュなら全部さしあげてもいいし」

「私そのもの、をお望みならそれもお好みの通りに」
さすがに薬が効きすぎたかと半分不安になりかけたブライアンにエリザベスが続ける、
「お名前は乗客名簿でわかりました、それと、突然こんな風にお話するのにはそれなりの訳もありますの」
「まず、タクシーですぐそこの駐車場に参りませんこと、車がおいてありますから、」
エリザベスの車はメルセデスの600というとんでもない高級車だった。
「こんな車になんで乗れるか不思議に思われます?」
「お昼時ですから、私の知っているレストランで軽いランチをしません、私がご馳走しますから」
ブライアンはともかく成り行きにまかせることにした。
レストランは海岸近くのイタリアンレストランだった。
エリザベスはわずかのサラダとサンドイッチという本当に軽い食事だった、
ブライアンも「事の成り行きの急さ」に落ち着いて食べる気分でもなく、
生ハムメロン、とゴルゴンゾーラチーズのパスタで済ませた。

ブライアンもその場でエリザベスに切り出した、
「実は、信じてもらえないかも知れないが、僕はほとんど記憶喪失状態なんだ」
エリザベスがまさかという顔になり真剣にブライアンを見つめる。
三日前ニューヨークのセントラルパークで突然意識を回復したんだ、
公園のなかでも一番木の茂ったあたりの根方に転がっていた。
エリザベスの顔色がみるみる青ざめ、目に涙を浮かべ始める。

「今着ているこの服装で、財布は持っていなかった、
ポケットのなかに鍵のようなものと小さなプラスティックケースに入ったカードがあった、
NYの、あるアドレスが書いてあり何かの会社名も書かれていた」
「そのアドレスは公園からさほど遠くないところにあって
しかもそのカードは立派なビルの地下の階への通行証のようなものだった」
「掌紋と網膜照合という複雑な手続きのあと、
金庫室に入ることができた、あとでわかったことだがそこは、
マフィアが会員を募って経営する会員制で分譲式の金庫室だったんだ、
かなりの額の管理料を一年ごとに支払うシステムになっているようだった」

「そこの金庫室も、なかのコンパートメントやそこにあったばかでかい金庫も
僕の掌紋と網膜でしか開かないようになっていたんだ」
「1フロアー、もしかしたらもっとかもしれないけれど、
全体が巨大な金庫室でその中にまた個人用の金庫室があるんだ」
「そんなところで、うっかり自分は誰なのかなんて訊けると思うかい、
僕の金庫のなかには君が想像もつかないほどの現金、債権がしまいこまれていた、かなりの宝石類もあった」でもカードやアイデンティティはなにもなかったのさ」
そこまで聞くとエリザベスは急にブライアンを促しカードで支払いを済ませると
駐車場の車にブライアンを押しこみ走り出した。

取りあえず家に帰るの、私のお話はそれからよ」
わずかのドライブで車は海に近いかなり高級そうなコンドミニアムの地下駐車場に入った。
エリザベスにせかされるようにしながら足を踏み入れた最上階の部屋はメゾネットになっており
ブライアンは、エリザベスに手を取られるようにして、二階の大きなベッドルームに入っていった。
エリザベスが「MR ラウル、・・ブライアンそこを見てそこの写真立てを」と叫ぶ。

幅のあるコンソールの上のいくつもの写真立てにおさまっているのはブライアンの写真、そしてブライアンとエリザベスの寄り添った写真だった。
さすがにあまりにも出来すぎたその情況にブライアンも声を失っていた。
「彼は私の夫、半年前飛行機の墜落事故で亡くなったの、
腕利きの証券ビジネスマンだったけど、遺体も確認された、
彼は死んだの、私にタップリ遺産をのこして、
おまけに500万ドルという生命保険も、」
「気を紛らせるために、私は元のスチュワーデスにもどったの、
いつか亡くなった夫がまた現れて私を口説いてくれるような気がして」・・・・・

エリザベスの眼に涙が溢れ出しわなわなと震えながら
「違うのね・・・違うのね・・・・でも言わせて・・・・・貴方・・・って」
恐る恐る腕をひろげたエリザベスがブライアンにしがみつくようにしながらすすり泣いていた。



 き

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