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                                    異空の神

第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空




告  白
 

エリザベスが先に立ってトレイに乗せた朝食をダイニングルームに運ぶのを見送りながら、
ブライアンの脳裏に急な不安が過ぎった。
「昨晩あの3人組に待ち伏せされたとき、何故前もって感じ取ることができなかったのだろうか?」
ブライアンはあの出来事の起きる前のことを思い起こしてみた・・・
そしてうっすらと思い出したていた。
3人組の待ち伏せのことはあの時わかっていたのだ、適度に回ったアルコールのせいで、
「もしも何かが起こるなら、それはそれで面白い」と一瞬感じ、
そのためわざわざ道を間違えた振りをしてホテルの裏手に廻ったためあの事件に出会った・・・

「酔いのせいで軽率だった・・・どうも傷つけられたり殺されたりの心配は
この世界では必要がないようだが、魔法のような場面を思いもよらぬ人間が見ていないとも限らないのだ、
特に自分の身に直接、危害が及ぼすわけでもない周囲の人間の存在をすべて把握し続けることは
さすがに不可能だと思わなければならなかった」
不安は解消されたが小さな後悔の気分と今後を戒める気持ちはブライアンの心に
「これまでになかった慎重さを」刻んでくれていた。

階下のダイニングでの食事は、二人ともガウン姿だった、
食事をしながらも眺められる海はブライアンに先行きの明るさを感じさせた
「なんといってもここは自分の望んだ世界の筈なのだから、そう解釈するしかないじゃないか」
という自信が湧いてきたのだ。
意識の奥から聞こえるような声でエリザベスが話しはじめていた。
「実は、私は今日から1週間の休暇に入るの、特に予定は立てていないけど」
「この辺で貴方のお話を納得がいくまで聞かせてもらえるかしら、いえ聞かせていただきたいの」

エリザベスがテーブル越しにブライアンを見やり一歩も引きませんよというように、きりだしていた。
「何から話せばいいか、何が真実か僕自身わからない、」
「多分君が云うとおり僕はこことは違う世界から迷い込んできたんだ」という言葉からはじめ、
実験の結果、待ち受けるスタッフのいないニューヨークに到着してしまったところまでを手短に話した。
「ニューヨークの世界貿易センタービル、あのツインタワーはいまでもちゃんとたっているだろう」
「僕のいた世界では今から確か16年前に飛行機を二機も衝突させるというとんでもないテロ事件、
9.11で燃え崩れてしまったんだ」

「ワーヲ」エリザベスが驚きの声をあげる「確かに貿易センターは今でも残っているわ、
でも大変な事件だったの、アメリカ国民を乗せた民間機を同じアメリカの戦闘機が撃墜したのよ、
FBIもCIAも直前にテロを察知したと報道されたわ、
「それ以上の被害を食い止めた」といくら説明しても『ブッシュ大統領は殺人者だ』
といって非難するデモ隊にそのあと散々悩まされた、
結局ブッシュにとって、どっちがよかったのか任期4年で再選されず、
その後あの何とかって言う民主党のふにゃふにゃ大統領を、
アメリカは4年間我慢しなければならなかった」

「貴方のいた世界では本当にあの民間機が二機とも貿易センタービルに体当たりをしたのね」
「それでそのための犠牲者はどのくらいになったの?」

「民間機の乗客乗員全部とビルにいた人たち2千数百人と言われている」
「僕のいた世界ではブッシュは無事再選されて8年間大統領の椅子にすわり続けた、
そのあいだにイラクと戦争をおっぱじめて大変なことになったけどね」
「イラクとの戦争はブッシュがこちらでも始めたわ、
あまりの人気の低下を何とかしようとして戦争をはじめたのは、パパ ブッシュと同じ」
「この世界はどうやら、自分のいた世界と微妙に違っている」とブライアンは心に刻んでいた。

「貴方の魔法の力、というのか、超能力のことを考えるとすごく怖いわ」
「僕はそんな超能力のことはなにも君に話してないじゃないか」
「私は、馬鹿じゃないわ、ただひとつ貴方が私をほんとうに気にいってくれているということは信じているの」

「あの救命胴着のパンフレット、飛行機を降りるときもう一度良くみたわ」
「あれは完全に魔法でしかない」
「そして、ゆうべ、
もし貴方が自分の超能力を隠すつもりだったのなら、私以外誰も気付かないミスを犯したわ」
「もう、・・・わからないかしら、貴方が本当に私に夢中になってくれていた証拠でもあるけれど」
「まだ、わからないの・・・・」
エリザベスがちょっと悲しそうな表情を浮かべて続けた「貴方は、私のからだの奥を噛んだの」
ブライアンもさすがに顔が赤らむ思いだった。
「あんなことは世界中の誰にも出来るわけがない、
貴方みたいな超能力者の変態以外は」というとエリザベスが席を立ち、
ブライアンの膝に腰を預け抱きついてきた。

「食事は終わったし行動の時間、・・・・そろそろ、本当のことをすべて話して、
お願いどんなお話も受け入れる準備ができているから」
ブライアンも覚悟を決め口をひらいた。
「この世界で、僕がどんな力を発揮できるのか、まだ、僕自身良くわかっていない」
「どうも、僕自身にとって本当に都合が悪くて、
しかも気がつかないでいるようなことは、偶然のように回避してしまうようだ」
「ホテルの裏道のあの事件はどうだったのかしら」エリザベスが口をはさむ。
「多分あれは僕が特にあの情況を恐れていなかったこと、
いざとなれば現金をばらまいて向こうがそれに気をとられているうちに逃げるとか、」
「もう実験済みだけれど、
一瞬で相手の背後に移動してカンフーで攻撃するとかどうにでもなる気がしていたんだ、」

「私の身の危険のことはどうだったの、まだ、納得しないわ、  
びっくりした相手が間違えて私を撃つことは想定しなかったの」
「さあ白状して、本当はあれは私にそんなことがあったとおもわせる魔法か」
「さもなければ貴方には私も一緒に瞬間移動させてしまうような力がある、
ということでしょう、だって貴方は飛行機の中で席を立たなかったのにトイレから歩いて出てきた」
「私は貴方にわからないようにずっと観察していたんだから」
エリザベスの次々と先手を打つ指摘にブライアンも覚悟を決めざるをえなかった。
ニューヨークのあのビルに到着してからあとのことを順を追って思い出しながらのブライアンの話に
エリザベスがいちいち納得の表情を浮かべる。

「わかったわ、私にまとめさせて、そのほうが貴方もこれからの行動を決めやすい筈よ」
「まず、貴方は当分このコンドミニアムに住むべき」
「そして、この世界の住人になりきる、方法を考えるの」
「私の考えでは、貴方は元々の世界に戻りたいとは今のところ考えていない、
もしそれが可能だとして、しかもそれを望んでいた、いるのなら、もう戻っている筈なんだから」

「貴方がこの世界の住人になりきる、
つまり戸籍、国籍?住民票、運転免許証、を手にいれるのはそんなに難しいことではないと思う」

「私は、貴方をもう絶対に失いたくない」エリザベスの濃い、
ほとんど紺に近いひとみが曇り涙を溢れさせていた「貴方も私を必要としているし、
私、役に立つ、貴方は間違いなく貴方、だから私を必要としているのがわかるし」
「もう、本当に私を愛し始めている、だって人目ぼれの筈なんだから」
「ねえ、そうだって言って・・・」
ブライアンも夢中でエリザベスを抱きしめていた。

エリザベスが涙を拭いながらブライアンの膝からゆっくりと腰をすべらせ向かい側に座りなおす。
「しっかりとまとめを続けなければね」「ちょっと脱線しかけ・・・」
「もうひとつ、私の両親のことも問題よ、結婚式のとき一度だけデイブと会っただけだけれど、
かなりの時間をその前後一緒にすごしたし、
いくらなんでも、『奇跡よ』といって貴方がデイブとそっくりなのを、ごまかすことはやっぱり無理」
「だって、貴方はこの先ずっと私と一緒なんだから、そうでしょう」

ブライアンもテーブルの上に手をのばしエリザベスの手をしっかりと握り、うなずいていた。
「両親は今パリに居るけど、近いうちにロサンゼルスに住むようになるの」
「私は何とか両親を納得させられそうなストーリーを考えたわ、
きっとこの世界はあなたの都合のいいようになっているから」
というとリビングの向こう側、
必要なときには別の部室として仕切れるようなった一角に歩いていくと
素早くパソコンを操作し数分で「ワオーーービンゴ」と声をあげた。

あっけにとられているブライアンに「9.11で撃墜された・・・・民間機の乗客名簿に
当時16歳のブライアン・ラウル少年がいるの、
貴方の力で彼だけ乗っていなかったことにするのは簡単」
「そしてデイブには双子の兄弟がいたことにする、
彼の両親に会って貴方がそれを刷り込むの、
出来るんでしょ、双子の一方である貴方は記録を改ざんされ
あのラウル夫妻の子供として生まれたことになっていて、ブライアンと名づけられたの」
「もし、そんなことが可能だとして、
デイブのご両親が双子の赤ん坊の片方を養子、この場合実子としてだけれど、
とにかく手放す理由がない」
「それにまだ、人の記憶を塗り替えたり、すりかえたり出来るのかどうかわからない」
ブライアンの脳裏に子供の頃聞かされた、当時の農場の苦しかった経営、多額の負債のことが浮かんできた。
「僕に君の言うような能力があるとすれば可能かもしれない」
と答えながら「この世界でアイデンティティーを創造することはそれ程困難なことではない」
という思いが湧いてきた。

その日の午後二人はエリザベスの運転でブライアンの住まいを確認するためサンクレメンテ海岸にむかった。
サンクレメンテ海岸のあの桟橋も、
海岸からわずかのところにあるブライアンのアパートも
全く元の世界と変わらないように見えた、
しかしアパートには全く別人が住んでいるらしいことがはっきりした。
ほんとうにブライアンが帰るべき場所はエリザベスの所以外になくなった。
ニューヨークを立つとき、何とかして行ってみるつもりだったカーメル近郊の父親の農場にも、
もはや行ってみる必要すらないほど情況は明白なものに思えてきた。
「実は、明日にでも向こうの世界で両親が住んでいる場所に行ってみたいと思っていたんだ、
でも無駄のような気がする」「僕は本当にこの、元とは違う世界に飛び込んでしまったんだ」
ブライアンのつぶやきに答えるようにエリザベスが口を開く
「大人になっても親が突然居なくなるって、辛いことね」
「向こうの世界でご両親はどちら、に居た、居る?のかしら?」
「カリフォルニア、・・・ここよりかなり北なんだけれど、・・・
カーメルという街はこの世界にもあるのかな、そこの郊外なんだ」

「え、・・まさかご両親の家はイチゴ農家だなんて言わないでしょうね」
「デイブのご両親のところがそこのイチゴ農家なのよ」
「あ、あ、なんで私って、当然そういうこと、でしょう」
「デイブ、は自慢してたの、アメリカで一番のイチゴ農家だって、
世界で一番美味しくて、しかも立派なイチゴを作ってるって、
それはデイブの功績で、彼が、日本でその技術を譲り受けて、実家の農園をそこまでにしたって」
「向こうの世界で僕も日本からそのイチゴの技術を持ち帰ったんだよ」
ブライアンとエリザベスは互いを見つめあいそして、
信じられない二人の運命に震える思いで強く抱き合っていた。


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異空の神 第1巻はこのあとも順次掲載していきます
既に完成済みですが、挿絵制作、文章校正のため
以降増ページまたは既に取得済みの別URLによりお応えしていく
つもりですお読みいただく読者の励ましをいただき
頑張っていきたいと思いますボリュームは単行本350ページ
ほどになります

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