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                                    異空の神



第1巻



第 4 章
飛  躍

 息子ブライアン

午後1時丁度、逃げるようにしてアンダーソン家を辞去したあと、
「どうせ今夜はエリザベスも居ないのだから、ロスに着くのは遅くなっても構わない。
久し振りで、サンタバーバラ(サンタバーバラ:レーガン元合衆国大統領が引退後住んだ西海岸の町)
を通ってみよう、時間的には何とか暗くなる前に通りかかることが出来る」
と考えたブライアンがカーナビにサンタバーバラへの最短時間コースをオーダーしたときだった。
マナーモードを解除しておいた携帯が突然チャクメロを鳴らした。

「エリザベス以外考えられない!何か緊急の要件か?
予定では確かバンクーバーへフライト中の時間なのに」と携帯を耳にあてる、いきなり
「今、まだカーメルのあたり?」エリザベスだった
「まだそんなところだよ、どうしたの?」
「急にフライト変更なの、これから飛ぶのよ、
サンフランシスコ行きに2名もベテランの欠員が出てスケットしなきゃならないの」

「勤務変更のご褒美で、明日と明後日がお休みになるのよ、
今日中にロスに戻るのには夜中になる便しかないんだから当然よね」
「それで貴方がまだそこにいるなら、お互いロスまで帰るより早く会えるでしょ」
「サンフランシスコ空港へ迎えに来てくれれば今晩とあと2日一緒に居られるし、
サンフランシスコは素敵な街だから一緒に過ごしても愉しいと思うの」

ブライアンは到着時間と便名を確認するとエリザベスとできるだけ時間を合わせるため、
カーナビでサンフランシスコへの「ゆっくりドライブお勧めルート」をチョイスした。
ほんの今考えたコースとは、真反対の方向へのドライブとなってしまった。
夕刻6時過ぎ、サンフランシスコ空港で落ち合った二人は
街の中心部まで行きアンバカデロでホテルの部屋を確保した。
チェロキーを地下の駐車場に入れ、ホテルのロビーに戻ると、
すぐにタクシーでチャイナタウンに向かう。
二人とも何を食べても美味しく感じられそうなほどの空腹を抱えていたのだ。
ビール、紹興酒、アワビとくらげの前菜、
フカひれのスープ、上海蟹、鶏とカシューナッツの炒め、・・・・炒麺

エリザベスがNYから一緒だったサンフランシスコに住むキャビンアテンダントが
「チャイナタウンでも最高」と薦めてくれた店だけに素晴らしいディナーになった。
そのあと二人はこれも中華料理店と一緒に紹介された
「サンフランシスコで一番の夜景が楽しめるバー」
を探しフラフラと夜の街を歩いていた。
お目当てのバーは、高層ビルの最上階に近いと聞いていたので
「目立つビルの中にあるのなら、すぐ見つけることができる」
と思ったのが大間違いだった。中華料理店から近い筈が、
いくらバーのある建物の名前を探しても見つからないのだ。
急坂を一度下り、また上るという繰り返しにイヤケがさしたエリザベスが
「タクシーを掴まえてどこか、
いい景色を楽しめるバーに連れていってもらうほうが簡単よ!」と言い出す。
二人は通りかかったタクシーを止め、「どこか景色を楽しみながら飲める、
お勧めのバーはない?いいところがあったら、案内して欲しい」とドライバーに聞いてみた。
「少し遠いですが、ゴールデンゲートブリッジの向こう側から
海越しにダウンタウンの夜景を楽しめる場所がありますよ、いかがですか?」と聞いてきた。

二人はタクシーの窓越しに、夜のゴールデンゲートブリッジからの眺めを楽しみ。
タクシードライバーの薦めた海岸淵のレストラン、バーに落ち着くことになった。
美しく水に映るダウンタウンの夜景・・・・サンフランシスコの高層ビルを遠く見やり、
明日の予定を話し合っていた。

翌朝二人はホテルのラウンジでビュッフェ、スタイルの食事を摂り、
すぐに部屋に戻ると昨晩計画したとおりエリザベスが
アンダーソン家に電話を入れた。電話にはヘレンが出た。
「ヘレン、・・ご無沙汰してしまって、エリザベスです」と、きりだすと
「まあ、エリザベス、今、どちらに居るのかしら、早く会いたいわ、
・・・デイブじゃなくて、あの・・ブライアンはいっしょなの」

「今サンフランシスコに居ますの、こちらに、お仕事のフライトで来て、
ブライアンもロスから来て合流してますの」
「弁護士のパーマーさんから、ブライアンのことを聞いてくださって、
・・・ビックリなさったでしょう」「ブライアンは昨晩遅くこちらに来たんです」

「パーマーさんから報告を受けて・・ほっとしてお電話したんです
『ご両親は驚くやら喜ぶやら』
『本当に自分達の息子がいるんだったら、ともかく早く会いたいご様子でした』って」
「間違いなくデイブの双子の兄弟なんです。
・・・ブライアンのことは、信じられないような出来事だから、
私がブライアンと一緒に、
いきなりお二人に御会いしに行ったのではショックが大きすぎる感じがして、
取り敢えず事情を飲み込んでいただけるようなお話を弁護士のパーマーさんにお願いしたんです」
「実は昨日パーマーさんは『仕事で遠出が出来るなら』と言って、
ロスからブライアンの車でそちらに伺ったんです。彼はドライブが大好きなの」

「そちらに伺ったあとパーマーさんはサンフランシスコまで来て、
飛行機でロスに帰りました、車を私たちのホテルに置いて・・・」
「その車でこれからそちらに向かおうと思っていますがトーマスは?・・お二人ともご都合は?」
「エリザベス、なにを言ってるの、都合もなにも、私たちにとって、
一生で一番大事なことよ、昨晩も本当に私たちの息子が帰ってくるの?

何かの悪い悪戯じゃないか、エリザベスが連絡してくるまでは、信じられないなんてね、
話し合っていたのよ・・・・
そんな大事なことなのに、他の都合なんて関係ないわ・・・」
「とにかく早く来て、それから車で来るんでしょう、今は携帯電話で何処からでも連絡がとれるんだから、
途中、途中今何処を走っているのか連絡を頂戴、
そうすれば、あせらずに待ってることが出来るから」・・・・・・・

その後のヘレンのあわてようはなかった。
農場に居るはずのトーマスを携帯で呼べばいいものを、
いきなりスポーツタイプのホンダに乗り、
ガレージのシャッターが開くのももどかしく突き破りそうな勢いで飛び出した。
トーマスは今頃このあたりに・・・と検討をつけ農場の中を恐ろしい勢いで飛ばすヘレンは
とても32歳の息子の母親には思えない。

トーマスのトラックを見つけ、あわや、あと数センチで追突というほどの急ブレーキで
ホンダをとめたヘレンが「貴方・・・」と叫ぶと、
そばに居た収穫人に何か指示をだしていたトーマスに突進する。

「デイブがじゃなくて、あの・・・ブライアンがエリザベスとこちらに向かっているわ・・・」
「さっきエリザベスから電話があったのよ・・
サンフランシスコのホテルからですって」
「こっちまで、どれくらいかかるかしら・・もう・・
落ち着いていられないわ貴方も何かチャントした格好をしなくていいの・・・」

「周りの人間が何事かと思うじゃないか、
すぐ行くから家に戻っていなさい」
「それにしてもエリザベスが連絡してきたということは、昨日の話は信じていいのか、
息子とまたゴルフを一緒に楽しむことも出来るのか?」
「貴方はなにかというと息子とゴルフっていう話ばかり」
「ブライアンがゴルフをするかどうかなんてまだ後の話にして頂戴!!」
ヘレンの言葉も聞こえたのか聞こえなかったのか
トーマスの顔も興奮に赤らんでいた。

ブライアンとエリザベスがアンダーソン家の
玄関に着いたのは午後1時半だった。
途中で連絡を入れたエリザベスにヘレンが「ランチを一緒に」
と主張するのに「どう考えてもすぐ後に食事を控えていては、
どちらも落ち着かないから」と時間をずらしたのだ。
ヘレンもトーマスも玄関のポーチに出て待っていた。
車から降り立ったブライアンを見るなり、
ヘレンが泣き崩れそうになった。
「ああ恐いみたいよ・・・貴方デイブよ・・デイブだわ・・御免なさい・・
でも貴方ブライアンなのね・・・どうしよう」
「抱きしめてもいいの、いいのね」
おずおずとブライアンに近付いたヘレンがブライアンにすがるように抱きつく。
トーマスも涙を流していた。

「さあ貴方の家よ・・入って頂戴、エリザベスも・・・」
4人が居間のソファーに向かい合いしばらく言葉も出さなかった。
ブライアンにとっても胸に迫る両親との再会だったが、
あまりにもほんの2月前に訪れた元の世界の両親と全く異ならないのと、
昨日既に二人とこの同じ場所でパーマーを装い、
感情を殺して対座していたこと、とで何とか平静を保てていた。
「デイブのことは本当にお気の毒でした。・・・どうも・・・
その・・お二人が私の本当の両親と言う事で・・
実は今日このようにお二方にお会いする事など、私は全く予期していなかったことなのです。
両親は16年まえに亡くなったものですから」
「そう  そうなのね、ラウルさんご夫妻でした?・・
お気の毒な事をしました・・こうして貴方が来てくれたのは何かそのご両親が
引き合わせてくださっているみたいな気になってしまう」

「間違いなく貴方は私の子・・・
私には分かるわ、ラウル家に貴方を渡したお医者様は去年なくなったわ、
もう誰にもそのとき起きたことの説明をしてもらえないのよね」
「その頃あの病院の産科で働いてた人、看護士さんも皆亡くなっているか、年を取られて今何処にいるか?
・・・・生きていられるのかどうかも分からないし、
病院も今は経営者が変わって、産科もないのよ」

「すぐ近くに大きな総合病院が出来てひどくさびれているわ」
エリザベスが堰を切ったように話し出す
「ヘレン・・私がブライアンと出会ったときどれくらい驚いたかわかるでしょう」

「私のフライト・・私またフライトのお仕事にもどってたの、
NYから彼が乗り込んできたの、どう見てもデイブそのものだった、分かるでしょう」
トーマスまで興奮した様子で「どこからどう見てもデイブそのものだ、
双子でもここまでそっくりなのは、凄い、雰囲気まで同じだ、
ブライアン君はゴルフが得意だろう、フットボールはあまり好きじゃなかった。
けれどそこそこはやった、大人になってからはゴルフが好きになったみたいだ」
「違うかね?」ゴルフ好きなトーマスは無理やりゴルフの話に引きずりこもうとしていた。
余程息子とゴルフを一緒にプレイした楽しさが忘れられなかったのだ。

「ゴルフは好きですよ、最近はあまりやっていないんですが、・・・・」
と言いかけてこの世界での自分の履歴を全く作っていなかったことに気がついた、
少し気をつけなければいけないと、思いながら「腕はまあまあです。

アンダーソンさんはゴルフがお好きなんですか?」・・・・・
「父さん、それともトーマスと呼んでくれ」トーマスが抗議するように言う
「君がわしらの実の子だということは確かなんじゃから」
エリザベスが横からまた喋りだす
「彼、ブライアンを見た瞬間にデイブの双子の兄弟?って感じたんです、
それから私、彼にまとわりつくようにして、そのままロスでデイト・・・・
彼の話を聞きだしたんです」

「彼はこれまで、ずっとアチコチを旅していて、
日本にも何年かいたそうなんですよ、
日本ではデイブとすれ違っていたかもしれないんです」
「ご両親が亡くなったあと16歳の頃から彼のことは、
昨日こちらを訪ねたミスター、パーマーが後見役になって、
いろいろ面倒を見てくれたと言ってます」

「そのへんからの事は僕が話した方がいいと思うよ」
ブライアンがエリザベスの顔に眼を向け、
まかせておけと言う顔つきをしていた。

ブライアンは念を込めトーマスとヘレンのふたりに
「僕はアチコチで勉強をしてきました。
アトランタの両親が遺してくれた莫大な遺産を、
馬鹿なことをして、すり減らしてしまうより、
じっくり世の中を見て、それから、事業をやるなり、
他の人とは反対に何処かの組織に属して仕事の方を趣味にするなりこれから考えます」

「大変な金持ちなのに職業は警察官でショーファーつきのロールスロイスに
乗っているというような話もありましたね」

「安心してください、これまで、自分に与えられた財産のことを一切忘れて
アチコチの都市でいろんな労働や仕事をしてきました」

「普通の人が親から自立し独力で生活していくため社会に出るという形は
僕にあてはまらなかっただけのことです」
「それにしても、僕が現れたことはこの辺りで大きな声で言わないことです、
そうでなくても噂になるでしょう」
「それと、農場経営やそれに関してのお金のこと、
ほかのどんなことでも困ったことが起きたら僕に連絡をください、
本当に魔法のように解決してみせますよ」

目を見張るような顔をしたエリザベスにブライアンが
かすかに悪戯そうな顔を向ける。
エリザベスが「ねえ、ブライアン、近いうち、
お二人にロスの貴方の家に来ていただきましょうよ、
貴方の家を見ていただいて、
それからアチコチたとえばラスベガスにご案内するとか・・・・」
トーマスが突然立ち上がり「そうじゃ、あの弁護士が置いていった現金、
あれは返したほうがいいと思うんだが」と歩き出しそうになる
「待ってください、先ず座ってくれませんかあの金には意味があるんです」

「16年以上前からラウル家にかかわっているパーマー弁護士に言わせると、
私の両親つまりラウル夫妻は事情を全く知らされてなかったアンダーソン夫妻のことを、
その頃思い出してはとても気にしていて、
もしも何かアンダーソン家に困った事態が生じたときにはこの金を使うようにと
200万ドルをスイスの銀行に預けていたということなのです」

「しかし折にふれ秘かに私立探偵に探らせていたアンダーソン家の情況はどんどん豊かに、
良くなっていき、預金の使い道はなかった、ということです」

「パーマーから相談を受けて私も考えていたのですが、
今後、私の出現でなにかと出費がかさむことになります。エリザベスとの結婚に際しても、
・・・エリザベスの実家であるコーネル家との交際もまた始まります」
「お金は人から知られないようにしておけば邪魔にはなりません」
「例えばどんな事にそんなに金が掛かると思うのかね?」

「それはその時になってみないとわかりません・・・
でも必ずお金を使いたくなる事が出てきます」ブライアンは口を閉じ、
エリザベスの実家との交際の場面、ヘレンのドレス、
ショーファー付きの最高級リムジンから降り立つトーマスとヘレン。
ヘリコプターをつかってのロスとカーメルの往復、
特にヘレンにはロスの高級店でのエステ、ロデオドライブの高級ブティックでの買い物・・・
と贅沢をすれば限りない・・・
イメージを二人の意識に送りこんだ。

ブライアンとエリザベスは近いうちの再会を約束し、
2時間ほどでアンダーソン家を後にしたのだった。

「なんだか疲れたわ・・・」
「僕もなんだかそんな気がする、さてまたハネムーンの続きかな、
どちらにハンドルを向けましょうか、奥様・・・」
ブライアンにはエリザベスがトーマスとヘレンの前で結婚を口にしたことに
機嫌を良くしているのが感じられた。
「ねえ・・貴方モントレーの17マイルドライブ・・・
海が見たくなったの、行きましょう」
「いいけどその後は、・・・どうするつもりなの?」
「君の休みは明日までだろう・・
こちらに夜まで居れば明日は殆ど一日走りづめになってしまうよ」
「それでもいいじゃない、他に考えもあるし」
ブライアンは昨日一人で充分堪能したばかりだとは言い出せなかった。
17マイルドライブの入り口を目指しながらブライアンは
先程のアンダーソン家でのトーマスの会話を思い出していた。

ブライアンとのゴルフプレイがトーマスの切なる願いだということが、
感じられたことが重荷に思えたのだ。
ロスの近くで、デイブがあまり行ったことのないコースなら大したことではない。
しかしこの辺りのコースは駄目だ。
どのコースにしろ必ずデイブの顔が売れているに違いないと思えたからだ。
そうなればトーマスが必ず、実はデイブは亡くなったが、
双子の兄弟がいたという話をせざるを得なくなる。
元をたどれば多額の借金を返済するため、医師が実の両親をだまし、
子供を売り飛ばした事件ということになってしまうからだ。
どこのマスコミが興味を示し、調査しだすかも知れない。
そうなった時にはどれだけの数の人間を相手に興味や記憶を消去するため
意識の集中を強いられるかわからないと思ったのだ。
16年前の新聞記事までさかのぼって、
ブライアンの死亡記事が誤りだったのか?そうとすればその後どこでどのように暮らし、
今何処に暮らしているのか、所有する財産は?・・・・・
とんでもない面倒が引き起こされてしまう。
そして一つの解決策を思いついたのだった。

もし知らない人間が自分をデイブそっくりだと認識したのを知ったときには即座に
「今後ブライアンの顔を見ても一切興味を抱かない、また見たことも忘れろ」
と念を送ればかなりのリスクが回避できる。・・・・・・・・・
起きる可能性のあるトラブルは根元から消去する・・・それが一番安全なやり方だ・・・・

「ブライアン・・なにか考え込んでいたでしょう。
アンダーソン家のご両親には他人に貴方の出現についてはできるだけ
話さないようによく暗示したのよね」

「私も実家のコーネル家の周辺から余計な詮索をする人間がでないように良く考えて、
必要なときには貴方に相談するようにする」
「少なくとも私も再婚ということになるからということで
あまり人の輪を広げた式はしないほうがいいのかもしれない」

「それと、これからお友達を増やして、
貴方の方に問題のない出席者を用意できるようにしなければ」
「私のほうもデイブのことを良く知っている人は呼べないけれど・・・・
でも、殆どはあまりデイブに会っていないのよ」
ブライアンはこの世界での、
自らのアイデンティティの危うさを今さらのように認識せざるをえなかった。
「結婚」ということを、考えることにより、これからの生活、
活動が、多くの人々の間に自らの存在そのものを作り出していくことであり、
以外に手順を必要とするものなのだと思い至ったのだ。

車が17マイルドライブの入り口に着き、
次々と瀟洒な別荘が目に入り始めるとエリザベスが
「この辺に別荘を買うのも素敵ね、皆オーシャンヴューが素敵なのよ」
「緑と海の水の取り合わせ、土と芝生の庭でのお食事って、ロマンティック・・」
「コンドミニアムは手が掛からないし、毎日自分で手入れしたり、
しょっちゅう人をいれて手入れをする必要がないだけ
プライバシーを気にしないで済むところがいいけれど」

二人はゴルフリンクスと海が一体になったヴューポイントで
駐車スペースに車を乗り入れる。
ブライアンは、携帯で写真を撮り、楽しげにはしゃぐエリザベスの様子を
「少女のようだ」と感じていた。
この世界に飛び込んでからの僅かの日々に起きたいくつもの出来事が嘘のように、
今の状態が自然なものに思えた。

岩だらけの小さな入り江になったあたりをのぞきこんでいたエリザベスが
「見て、こっちに来てみてよ」と大きな声をあげる。
灰色の岩陰に良く見ないとわからない保護色とも思える
アザラシが10頭ほど群れていたのだ。
徐々に日が傾き赤みを帯びた夕日に変わろうとしているときブライアンは
「このあとどうする気なんだい」と聞いてみた。
「このままここで陽が沈むのを見ていたいわ」
「素敵でしょうこうしているだけで・・」とエリザベスがブライアンを抱きしめる。
もう辺りには人影もなく二人も車も黄昏にぼやけはじめていた。
エリザベスが「ちょっと実験をしてみて欲しいの、
二人でこの海岸からあの瞬間移動という手でロスに戻ることは可能の筈でしょう・・・
そうしたら残る問題はこの車をどうするかだけ・・・・私たちは車から離れていて、
車だけを貴方の家の地下ガレージに移動させる、・・・・出きるかどうかやってみて・・」

ブライアンがこの世界に飛び込んでしまってから一番大きなものを移動させたのは、
200万ドルもの札束だった・・それもごく短い距離の移動だったのだ。
既に目に見える限り人影はなかった。あたりはもうかなり暗くなってきているし、
もし観察しているような存在があったとしても
山に向かったはるかに遠く見える別荘からしか考えられなかった。
エリザベスと一緒に車から数メートル離れたブライアンはチェロキーを
意識のベールでしっかりと包み込むと
B/Lハウスの地下駐車場を思い描き一気に移動させた。
車はもうそこにはなかった。

「成功ね」エリザベスが小さく感嘆の声をあげる
「家に帰って車が駐車場におさまっているのを見ないことには
納得いかない感じだけどね」
「間違って人が近付かないうちに僕らも・・」
とブライアンがエリザベスをしっかりと脇に抱きしめる。
次の瞬間、二人はブライアンの家のリビングに立っていた。
二人はすぐにエレベーターで地下に降りチェロキーが
そこになにごともなかったように駐められているのを確認した。
エリザベスが「貴方は夜のあの海辺をしっかり、イメージできるようになった筈ね、
夜になればいつでも二人であそこへ瞬間移動することが可能なわけよね、
そうでしょう。素敵」と声をあげる。

エリザベスのほうがブライアンの、
この世界での能力の使い方を先へ先へと進めそうだった。
リビングに戻るとエリザベスが「貴方何か忘れてない?」
「私はNYからハワイのミス・ワタナベ・・・
MAIに連絡しておいたの今晩9時前・・
勿論向こうの時間で彼女のホテルでお会いしましょうって。
さすがのブライアンもエリザベスの行動計画があまりにも無駄なく組まれていたのに驚いた。
エリザベスの計画の中には、
ブライアンの瞬間移動の魔法が当然のこととして計算されているのだ。



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