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                                    異空の神

第1巻




  第2章

  異空転移


  失われた ID


カウントZEROにむけブライアンの意識は前回のように
目標地点への移動、実験の成功へとは集中されなかった、
「アマンダと本当に一緒に暮らすべきなのか、
俺のような軍人と一緒で幸せになれるのか、自分自身はどうなのか」

「移送先のニューヨークはその象徴かも知れないが、世の中には富や名声に囲
まれて暮らす人々がいる・・・・富はいいが、しかし自分は特に名声などは望
んでいない」
名声とか有名であるとかいうことが如何に
自分自身の自由を蝕むかを想像するときブライアンのプライバシー感覚が逆撫
でされるのだ。「それにしても可能なら魔法使いのように物事を自由に操るこ
とができれば全ての問題は解決できるじゃないか」
などととりとめのない思いが頭の中を駆け巡っていた。

「ZERO」のアナウンスがしみこむように聞こえ
意識が強烈に揺さぶられた、
前回の実験のときに経験しなかった、揺れだった、。
ブライアンの頭の中で「魔法使いみたいに物事や人の心を動かせたら、そんな
夢を見たって、・・そんなことがあったとしても、どうする」
「そもそもの元になる資産は?運転免許証だって、
ソシャルセキュリティーナンバーだってみんな揃っていなければ
何もならないじゃないか、恋人は・・・」
実験の巨大装置に一人取り残された気分のブライアンは日頃から気になってい
た今後の身のふりかた、
転進し成功しつつある友人のことから発想された、富、夢に翻弄されている自
分を感じていた。
一瞬意識も消えた感じがあった、一筋の道を素直に移動した前回の実験のとき
とはかなり違っていた。
徐々に意識が統一され、明確になる過程で実験に投入された筈のエネルギー量
の格段の大きさが思い起こされる。
確かにすごかった、「だが俺はまだ生きている」と自分に言い聞かせていた。

意識が完全に戻るのを感じながら床に膝をついた状態で、ブライアンは周囲を
見回していた、約一月前訪れたあの部屋に間違いないようだった。

ゆっくり立ち上がり、自分の身体を見回す、特に異常は見当たらない、
携行のパソコン、携帯、銃、ナイフ、問題はなかった。

60秒ほどもそうしていたかも知れない、がらんとした300平方メートルも
あるようなその、TV局のスタジオをも意識して作られたという空間の一方の
壁に唯一等身大の鏡があったのを思い出し、見回すと、
後ろの壁にそれがあった、自分の姿を鏡に映し特に異常がないのを確認しなが
ら急に不自然さに気がついたのだ。
監視カメラでブライアンの到着を確認している筈の現地スタッフが部屋に飛び
込んでこないのだ。
鏡の左手10Mほどのところにある両開きの扉の片方を開き外に出る、
本来そこにはレオナルドの二人の助手と何人かのスタッフがいる筈だった。
部屋はもぬけの殻だった、さらに重い防音扉を抜けホールに出る、
外部に通じる扉を開くと特に変わりのないニューヨークのあの一角の景色だっ
た。首をのばすようにして他のビル越しにのぞくと国連ビルの上から3分の1
が見えていた。

もう一度建物に戻り「オーイどうなってるんだ、誰かいないのか?
時間でも間違えたのか?」レオナルドの助手二人、ジュリア、とあのナッツじ
ゃないカシューは何処にいるんだ、ふと思いつくと携帯を取り出しレオナルド
の緊急連絡番号を押す、「何がどうなってるんだ激しい怒りを感じていた、
電波がスクランブルされ構成し直されて届くイメージが頭を過ぎり時間が経過
していく、反応は全くなかった。
作戦終了前、禁じられてはいるのだが思い切って通常チャンネルに変え前回の
実験で顔見知りになり、いつか一緒にゴルフをプレイしようと話し合ったエロ
トロの担当小佐カルロスのオフィスをよんでみた、
カルロスには実験の内容は知らされていなかったが、エルトロでの受け入れチ
ームの世話役として、3日の間食事、と酒の相手をしてくれたのだった。
これも全く反応がなかった。液晶画面は明るいし、バッテリー表示もフルを示
している。
お手上げだった
仕方なく元の建物に戻りホールのソファーに身を投げ出して待つことにした。
「なにが起きているんだ いったい何が、
そしてブライアンが転送されたあの部屋から出るとき、ホールへ抜けるとき、
建物の外へ出る時、すべての鍵が外部から施錠された状態だったことを思い出
す、「おい外からカンヌキみたいなものを掛けられていたらえらいことだった
ぞ、」「待てよ、財布は砂漠の基地に置いてきているし、
カードも現金もない、外に出ても打つ手がないぞ」「あまり慣れ親しんでいな
いニューヨークでこんな思いをさせられるのはかなわない、
第一、身分証もないんじゃ空軍のオフィスを探しあてて名乗り出るにも門前払
いになってしまう」
「途方にくれるというのはこんなことだ」とつぶやきながら、
3時間もの時が流れていった。
携帯の時計は西部標準時のまま午後3時、
考えてみればこちらではそろそろ夕方6時だから
暗くなるまでそんなにはない」「なんとなく不安にもかられる、行動に移るべ
きときだ」ブライアンは小型パソコンの薄く小さなケースのにぎりを確かめ、
銃のケースをベルトからはずし、パソコンと銃のケースをソファーの下に押し
込むと夏向けの薄いジャケットの胸の内ポケットに銃をしまった。ナイフはブ
ーツの上、ズボンの中に隠れているので問題なかった。
ブライアンは夕刻のニューヨークの街をあてどもなくさまよい始めた。空軍の
オフィス、基地と頭に浮かぶものの1ドルの現金もカードも持たずどうやって
移動すればいいかも考え付かない。

ポケットを探っても無論何もなかった。「強盗でもやらなければ食事をするこ
とすら出来ない」ただいくら歩いても日頃の鍛錬のせいばかりではないくらい
疲れる感じがなかった。
しかしいくら歩いても何の解決も思い浮かばない、
救世軍に助けを求める?      いくらなんでも!! 
結局また歩き続けるしかなかった。立ち並ぶ建物を眺め、
探るように商店の様子を見る、セントラルパークの周りを歩きレストランの前
を通り掛ると実験に臨み食事を控えていたことが頭を過ぎり、ガラス越しに見
える白いプレートに盛られた料理、旨そうなパンが空腹を思い出させる。・・
・・
さらにまた街の中心部をウロウロと歩きまわったあと、ついにセントラルパー
クのベンチに座り込むことになってしまった。身体に疲れは感じていなかった
が、心はくたくただった。

もう一度携帯を取り出し今度は片端からかけまくるつもりで、
まずアマンダからはじめた、全くなんの反応もない、まるで電波が飛ばない感
じだった、街中で携帯を手にした人々はいくらでもいたのにブライアンの携帯
はウンともスンとも言わない。

あちこちで街の明かりが灯りニューヨークの夜の幕が開き始めていた。
ブライアンは急にたまらないほどの空腹を感じてきた、日本の神戸牛の味が頭
に閃き、
せめてあの通り掛かったレストランの焼きたての小さなステーキとうまそうな
パンを載せたプレートがベンチのうえに現れたらとまで念じていた。
まるでからかうようにすぐそばで焼きたてのステーキの匂いがたちこめ、パン
の香りまでしだしたのだ。

どうなっているんだ?とすぐ脇に目をやると、そこに、思い描いたプレートが
湯気をたてていた。

ブライアンの座っていたすぐ脇に突然現れたステーキとパンの皿には店の名が
記されていた、「おい、手掴みで食う訳には行かないぞ」
ついに腹を空かせ過ぎて幻を見るようになったかと悲しくプレートを見つめな
がらつぶやくとそこにはちゃんとナイフ、フォークが添えられていた。
公園のすぐそば、ブライアンが通り過ぎたレストランのカウンターからウェイ
ターが客に運ぶ寸前、誰も見ていないところでステーキのプレートとパンの皿
が消えたことはたいした騒ぎにならなかった。
いくつもの注文のなかで順繰りに料理が運ばれ、誰がどこで数を間違えたかも
わからないまま処理されてしまったからだ。

ともかくブライアンは幻でも構わないと、食事をさっさと平らげてしまった。
ブライアンの目障りになっていたプレートやナイフは
いつの間にか消えていた。

ブライアンはそれが本当に起こったことだとは考えていなかった、
ただなんとなく元気だけは取り戻した気分で次の行動をあれこれと思い描いて
いた。

どれほどの時間が経ったのだろう、ブライアンは立ち上がり公園の反対側の出
口を探すつもりで歩き出した、夜の公園が危険かもしれないと考えるよりは他
人に邪魔されずに歩いていきたいという気持ちが強かった。

ブライアンは歩きながら、一体なにがあったのかを考え始めていた、
目標地点には間違いなく到達した、
しかし実験受け入れスタッフはそこにいなかった。・・・もし間違いなく本当
の目標空間に到着したのならそこにスタッフがいない筈がなかったのだ。

一瞬冷水を浴びたような戦慄が全身を走った。時間的なことも含め冷静に考え
れば受け入れスタッフはそこに来ていないなどということはあり得ないことな
のだ。
なぜならブライアン自身にはわからなかったことだが、エリア60の送り出し
スタッフとニューヨークの受け入れスタッフは実験開始の前ずっと連絡をとり
あっていた筈なのだ。
ということは、間違いなくブライアンが目標に到達したのだとすれば、受け入
れスタッフが煙のように消えたということになる。
時間を間違えてきていなかったなどという先ほどの
ブライアンの「もしや」という腹立ちは見当違いもいいところ、ということに
なる。ブライアンの脳裏に実験開始まで60秒のカウントダウンの前、施設中
央のプレートに進んでいこうとする自らの姿が浮かんでいた。周りのスタッフ
が「ジュリア、カシューもうすぐだカウントダウン開始まで後2分」
ニューヨークのスタッフとのそんなやりとりが聞こえていたのだ。ジュリアも
カシューもあの時目標地点にいたのだ。
もしかしたら時間をスリップした?そんな思いが頭に過ぎる、急ぎ足で街のに
ぎやかなほうに向かい、新聞スタンドに近づき目を走らせる、日付は間違いな
く2017年6月20日、目に付いた広告ディスプレイの端に刻々刻まれる時
刻も、3時間の時差を計算に入れブライアンの携帯の時計と全く違いがなかっ
た。
「正しい目標に到達しなかった」ハッキリとそう結論しなければならないこと
になる、それじゃあ、ここは何処なんだニューヨークに間違いはない、だが違
うニューヨークだ、さすがの空軍パイロット、いくつもの誰も挑戦したことの
ない冒険と実験をくぐりぬけた勇士ブライアン、・・・も背筋に走る恐怖を否
定できなかった。

少し前公園のあのベンチで現れて消えたステーキの皿、あまりに途方に暮れお
かしくなったと自分に言い聞かせたがあの時確かに、肉とパンを食ったのだ、
いまはあの空腹感は治まっているのだから。夢中で食べた後、皿も、ナイフも
消えていたから、夢の中の出来事だと決め付けたが、・・・・ブライアンは歩
道の片隅に立ち、人通りを背にすると、新聞スタンドのスポーツ紙を頭に描き
手元に届くことを念じてみた。次の瞬間広げた掌に新聞が届いていた。
「おい マジかよ、・・・・これは喜んでいいことなのか、?」
 
今度は街行く人々に目を走らせる、かなり裕福そうな人間、用心深く胸に強盗
対策の命金を入れていそうな人間を探してみた、
そして彼らの財布や胸ポケットから100ドル札一枚ずつが自分のズボンの右
ポケットのなかに順序良く納まるように念じていった、それらしく思える20
人以上の通行人を観察したあとそっとズボンの右ポケットに手をいれてみる、
「おい  今度こそマジかよ」ブライアンはぶつぶつつぶやきながら歩道の隅
により、
また通行人を背にした。
人から見えないようそっとポケットの中に感じたものを取り出す、
約20枚ほどの100ドル札が手に掴まれていた。

ブライアンは素早く5枚の百ドル紙幣だけをズボンの右ポケットに残し、
残りをジャケットの銃と反対の内ポケットにしまいこむと、歩きはじめた、
周りをみまわしながら、閉店間際のディスカウントショップを見つけると、
皮製のように見える小ぶりのブリーフケース、下着、洗面具、簡単な食料、
ウイスキーのビン、と思いつくままカートに放りこみ、レジに向かった、一箇
所だけ残されたレジには若い男が立っていた。
何の愛想もなく「98ドル丁度」「
品物はバッグの中に入れとくよ」と言うと手際よく、買った品物をブリーフケ
ースに納め手渡してきた。
「あんまり大事そうに持っていると悪いやつらに狙われるぜ、
今日び100ドル札は狙われるからな」親切なのか、脅しなのかわからない言
葉で送りだす。「アンタで今日の商売は終わりさ」若い男の声を背後に聞きな
がらブライアンは店を後にしていた。
「少なくともここの言葉は英語だ」ふざけてつぶやいた言葉も笑いをさそえる
ものにはなっていなかった。とにかくまず適当なホテルに落ち着いてゆっくり
考えたかった。
トラベラーズインと看板の掛かったホテルに足を踏み入れるとカウンターには
50年配のくたびれた顔の男が立ち、新聞に目を通していた、男はブライアン
に気付くとヨレヨレのスーツにあかじみたネクタイという姿で、肯く「前金で
40ドル、きれいな部屋だよ」こちらの注文もきかずに手を差し出す、ブライ
アンは「二晩泊まるつもりだ、仕事探しさ、最後の100ドルだ、ちゃんと釣
りをくれ」と調子を合わせポケットの紙幣を大事そうに取り出すと「ここじゃ
チップはとらねえよ安心しな、6階の604号だおやすみ」と鍵を手渡してき
た、すぐ奥に見えたエレベーターに歩いてゆくと「ドアチェーンもちゃんとか
けなよ、訪ねてくる女は相当やばいからな、開けたとたんに男が銃をもって入
ってくるかも知れないよ、いやーこれは冗談さここではそんなことはまあ滅多
に起きないが、いい女なら俺に相談しなよ、おっと最後の100ドルなんだよ
な、ま、それじゃ無理か、おやすみ」
男は以外に饒舌にブライアンの背中に話しかけていた。
604号室は通りに面しており、レースのカーテン越しに通りの向かい側の建
物が見えていた。
テラスはなくそれだけに外壁を外から登るのは難しい、自分が一体どういう情
況に置かれているのかよく判らない以上用心深くするにこしたことはない。次
々とブライアンの脳裏に今真剣に考えておかなければならないこと、いくつか
試して見なければならないことが浮かんでいた。

ブライアンはしっかりと内側の厚手のカーテンをしめ、次にバスルームを点検
した、バスタブはないがそれほど狭くもなく、プラスティックの透明な扉と壁
で四角く囲まれたシャワースペースは清潔に手入れされていた。

ブライアンはカバーの掛かったベッドになかば寝そべるように寛ぐとジャケッ
トをとりながら内ポケットの札をつかみ出した。

殆どきれいな札ばかりでまだ2000ドルきっかり数えられた。
突然現れた金は突然消えるような気がして不安だったがそんなことも起きなか
った。

「25人から100ドルずつ盗んだ」ことになるのかと考えるとあまりいい気
分はしなかったがそのことは当面忘れることにした。
「一体俺はどおなってるんだ、いきなり超能力の持ち主になったのか ?
それと本当に自分が今何処に居るのか、ここはニューヨークなのか、もしニュ
ーヨークであることに間違いがないとしても元と同じ世界ではないという結論
は出ているのだが、
先ほどの新聞は目を通さないままどこかに置き忘れてしまっていた・・・
なにもわからない」
と思いながら部屋の旧式のテレビのスイッチを入れる。部屋の古びたデジタル
時計は10時過ぎをさしている、ブライアンにしてみればまだ7時過ぎという
ことだ、もう通常の生番組はニュース的なものを殆どとりあげていない、カリ
フォルニアとは放送されるものが違うということなのか、何処のチャンネルも
あまりなじみのある画面は放送していなかった。そこから得られる情報はあま
り期待できそうもなかった。
一先ずテレビを切るともう一度考えてみる。
もし間違いなく目標空間に到着していたとすれば、参謀本部が警察まで動員し
ブライアンの行方を探索したはず。それらしい動きは全くなかった。
それと今手にしている現金がなによりも不思議だ。
ふと思いつくとバスルームにあった、まだ紙に包まれたままの小さな石鹸を思
い出し右手を開くとそこに飛んで来いと念じてみる、次の瞬間当たり前のよう
に石鹸は右手の上にのっていた。
「どうもここで生きて行くには当面、金の心配をしなくてもいいのか」と半信
半疑のつぶやきが口から漏れる。
「やっぱり俺には超能力が備わったらしい」・・・・奇妙な困惑と後ろめたい
ような期待感が交錯し落ち着かない気分が増す。
もういちどテレビをつけようと思った瞬間テレビ、オンと念じていた、いきな
り画面が明るくなり今度はキャスターがニュースを喋っていた、相変わらず中
東でテロ、石油の値段があがりそうだとか、の報道のあと、今日午後3時頃ニ
ューヨーク周辺でかってない電磁波の乱れが生じ各TV局の放送が広範囲にわ
たり受信できなかった。という苦情が相次いだ、また大規模な携帯電話の不具
合、官制塔との交信が混乱し、飛行機の発着を一時見合わせるという事態がお
きた、原因は太陽表面の異常活動と言う説もあるが、天文台ではそれほどの異
常は観測されなかったとの発表もありこの現象の再発を懸念した科学技術省に
調査チームが発足することになった。というコメントで番組が終了した。
ブライアンはしばらく考えてみることにした。
瞬間移送実験により到着したこのニューヨークが、実験前、自分が暮らした世
界の同じ場所ではない、という結論は動かしようがなかった。昼間のあいだ
途方にくれて歩きながら見渡したニューヨークの景色だった・・・・・・・・
まともな神経のときならすぐにわかったことだ。世界貿易センタービルが彼の
少年時代に見た写真のようにまだちゃん存在していた。少年ブライアンがあれ
ほど憎んだ事件はこの世界では起きなかったのだ。

もはや決然とした気持ちで次の行動に移るべきだった。
「もし自分に物を瞬間的に移動させる能力があるとして、どこまでそれが可能
なのか、人の見ていないこの部屋の中で実験するべきだった、ブライアンはベ
ッドに座り部屋の中を見回してみた。
まずはじめにすぐ目の前の一人掛けのソファーに意識を集中しそっと包み込む
ように目線をすえると、ゆっくり床から離れるように念じてみた。
念ずるというほどのことは必要ないというようにソファーはスーッと1Mほど
浮き上がる、意識がソファーを捕らえている感覚を感じそのまま部屋の入り口
のほうに、そのつながった意識を移動させる、まさに意識のとおりにソファー
は動いていった。
そっとそこに下ろすように意識してソファーから目線をはずす。
今度はソファーを浮き上がらせ
激しく揺さぶり逆さまにしてもとの位置に戻す。
自分でもなにをしているのか、本当に起きていることなのかもわからない恐怖
のない混ざった感覚に襲われソファーをもとどおりにし、
考え込んでしまった。
今起きたことが自分だけの夢の出来事ではないという確証がなかなかもてなか
った。
ブライアンは室内のライトを消すと小さくカーテンを開き外の通りを見下ろし
てみた。路上には目の届く場所に3台の車が駐められていた。
1台の中型トラックが目につく、古い使い古された感じのトラックだった。
目を凝らしてよくみても誰も乗っている様子はなかった。
通りに人影が見えないのを確かめ、どうせならこれ位のものでと心に子供のよ
うないたずら心を感じながらトラックを意識で包み込み、やわらかくとつぶや
きながら通りを塞ぐようにして横に転がす感覚を思い描いてみる。ブライアン
の目に横倒しで道を塞いだトラックが映っていた。
すぐにカーテンを閉めると部室の明かりをもとに戻す。
「これで朝には少なくとも通りで小さな騒ぎが起きる、起きれば、一つこの奇
妙な情況に少し確証が持てる」
ブライアンは部室の、すぐ、はす向かいにあることを確認していたアイスベン
ダーから氷をアイスペールに入れて持ち帰るとスコッチと水をバッグから取り
出しその日はじめて、やや寛いだ気分で水割りを作り飲みはじめた、あまり深
刻に事態を考えたくないと思いながらも、「アマンダはこの世界に居るのだろ
うか、おれ自身とは別のブライアンがいるのだろうか」などと、とりとめのな
い思いが脳裏を駆け巡る。
突然車のクラクションが響く、今度は明かりを消すこともなく小さくカーテン
を開くと外の通りを見下ろしてみた。
横倒しになったトラックに行く手をはばまれたごみ収集トラックがライトを点
けたまま止まっているのが見える。中から運転手と助手らしい男がでてきて、
忌々しそうに横倒しのトラックを見やり何か毒づきながら蹴飛ばすような仕草
をする。こんどは運転手らしい男がポケットから携帯を取り出し何処かに連絡
をしているのがわかった。
10分もたっただろうか、一台のパトカー、がライトを点滅させて到着し、深
夜にもかかわらず何処からともなく数人の野次馬が現れ見物しだす。
「もういい、朝になればこの騒ぎがほんとうにあったことかホテルの玄関オフ
ィスでわかることだ」
ブライアンはカーテンを閉じスコッチの水割りを口に運びながら、また自らの
置かれた情況に思いをはせた。
明日はなんらかの行動を起こさなければならない、身分証、運転免許証、クレ
ジットカード、銀行カード、も預金口座もなしでどうすればいいのだ。
それにしても、エルトロへの移送実験の時には何の問題も生じなかったのに、
今回は、と頭を巡らしていった。
最初の実験のときはあのプレートの上でひたすら実験の成功を願い、
エルトロのあの倉庫に無事到着することだけを念じていた。
ブライアンは実験機のテスト飛行のときも、そのほかのミッションでも取り掛
かるときにいつもその成功、成就をねがい一種の儀式のように自分なりの祈り
をするのが習慣だった。
今回の実験ではどうだっただろうか、
まるで魔法のように瞬間に空間を移動し、ある意味であり得ない場所に現れる
ということは・・・・もっと異なった場所にも移動できるのではないか、と考
えていなかっただろうか。
たしかあのときNYへの移動ということから世界一富める街、富、名声、と連
想し、自らの願いが魔法のように叶えられるなら、富や・・名声などは、もと
もと必要とは思わないにしても自由になる、という空想に捉われていた。
NYのあの場所に間違いなく到着することに意識と、思い、を集中してはいな
っかった。もしかして、今自分がいる世界はマトリックス、やハーシュレルム
といった映画に描かれた仮想現実空間なのか、あの実験は瞬間移動実験などで
はなく俺をバーチャルリアリティーの世界に送り込む欺瞞だったのだろうか。
とにかく「この世界での自分の能力を少しずつ試していこう」というのがブラ
イアンがその夜到達した結論だった。
一気に飲み進んだ、アルコールのせいか、急に襲ってきた眠気にさからっても
仕方がないと、ブライアンは眠りにおちていた。

続き

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