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                                    異空の神



第1巻



第 3 章

現 実 の 異 空

ブライアンの城

ブライアンの突然の表情にあっけにとられているエリザベスに
「僕のズボンに入っていたって君がいっていた、ディンプルキーとカード、
あれはどこにある?」「えーと、あれは、貴方のズボンのポケットに戻しておいた筈よ」
「それでズボンは寝室のクローゼットかい」
「ええそうよ」
ブライアンはあたふたと二階にあがりクローゼットの中にあのズボンを見つけると、
ポケットからディンプルキーとカードを取り出した。

明るいところでよく見ようと、リビングに降り、初めて入念にカードを見てみた。
カードには小さく、YOUR RIGHT&SECURITY とかかれており、
その下に住所と思われるものが、記載されていた。
暗証番号と掌紋、網膜の照合手続きが必要、不正使用は出来ませんと書かれていた。
・・・・そして住所だった。なんとそこに記されていたのは、
ロサンゼルスのダウンタウンから少し離れた住宅地になるのではと思われる住所だった。

建物の名前がB/L不動産ビルとなっていた。
その場所までは片道30分程しか掛からない筈だった。
何がなんだかわからないという顔のエリザベスに
「今夜遅くにワイキキの浜のあのほとんど人のいない辺りに
十分用心して瞬間移動してみよう」
「その前にこの金庫室かもしれない場所に行って見たいんだ、なんだかわからないけれど、
僕のイニシャルの付いたビルなんだよ、一緒にくるかい」

「勿論よ、なんだかワクワクしてきちゃう、でも安全とわかるまでは、
私は車の中で待っていたほうがいいと思う」
「だってマフィアの経営でしょ」
「実は僕にだって、このキーとカードの意味するものがわかってないんだ、
用心にこした事はない」
「もしものことを考えると・・・
君が通りに車を止めて待ってくれていたほうがいいかも知れない」


「別に脅しじゃないけど、僕でもいつ今の超能力がなくなるか、っていう不安はあるんだから」

ついブライアンは本音をもらしてしまった事を後悔したくなった。

二人はエリザベスの運転であのカードに書かれた住所に向かった。
B/L不動産ビルは丘陵地をかなりのぼった住宅街の入り口、というか、
周りからは独立した状態で表通りから一本はいった静かな場所に確かに存在していた、
割に新しく見える10階立てで、
見た感じは個人の経営する洒落たコンドミニアム形式を一部に取り入れた建物だった。
「マフィアがどうのこうのと言ってたから、
もっと恐い感じの場所かと思ったら、感じのいい所じゃない」
「一番上の階は素敵なペントハウスよ、
それにしても全然人気がないわ、そういう意味じゃ気味が悪い、
やっぱり私は車で待ってたほうがよさそう」

「マフィアの金庫室って言ったのは咄嗟に出た作り話だったって、謝った筈だよ」
ブライアンはそう言いながら車を降り
「念のためロックしておいたら」と冗談めかして言い歩道から20mほども空間をとり、
建てられている建物の正面に立った。

改めて見上げると巨大なと表現したい、
しかもかなり贅沢な外装の頑丈そうな建築だということがわかった。
 大きなこれも贅沢な木と金属を組み合わせて作られている扉に手をかけ引いてみると音もなく開く。

かなりの広さの玄関ロビースペース正面、やや左手にあるカウンターに
守衛兼管理人といった初老の男が立ちブライアンを丁寧に迎える。
いきなり「ラウル様、ブライアン・ラウル様で
・・・ピッタリ予定の日、予定時刻にお見えで、ホットいたしました」
「お待ち申し上げていました」  
「どういうことなのか・・・!!!!!」

全く予期しなかった、相手の対応にまるでキツネにつままれたような気分で
ブライアンが思わず口ごもる。
「この建物は毎週の清掃、定期的な手入れにより、
いつでもご主人様をお迎えできるよう、ととのえられてきたようでございます」
「私は、2週間前から不動産管理会社に派遣されここで貴方様をお待ちしておりました」
「失礼いたしました、私はエリック、エリック・ストーンと申します」

「一応、カードをお見せくださいますか、
何かかなり特殊な金属のカードと聞いておりましたのですが」
・・・・云われるままブライアンがあのカードからキーを外して手渡すと、
「成る程これが・・・」
といいながらエリックと名乗った男が、
照合のための機器に金属カードをスライドさせ返却してきた。
「結構でございます、それでは、このカウンターのここの鍵をお持ちのはずのキーでお回しください」
あのディンプルキーを差し込むとピッタリとはまりそれを右に回す。


低いモーターのうなりのような音が聞こえそして、
ギリギリときしむような音に変わる、
音のするほう・・・ロビー正面の全面に彫刻が施された金属の壁と思われた部分が
左右に開きだしていた。
エリックが「こちらへ」と先に立って歩き、開いた金属の壁の奥に歩いていく。

そこにあった、小ぶりのチェックカウンターのようなものを指し示し、
「こちらがセキュリティーコントロールボードとなっております」
「ラウル様がボードのこの部分に掌紋をかざしこちらの小さな窓に左目を当てますと
その瞬間から建物のこちらから奥、エレベーターホール、
階段室にはご指定の4桁の暗証番号をこのキーボードに
打ち込まなければ進めないようになります」
暗証番号はオールマイティーの4桁の番号とその日その日に
通用するやはり4桁の番号が有効になるそうですが
その辺はマニュアルをご覧になり、今後御自分でお考えくださいませ」

「それとこのボードが掌紋、網膜、暗証番号の登録装置になっております」
「私はこの場をちょっと外しますので暗証番号をお入れくださいませ」

ブライアンはボードに右手を置き、網膜照合用の窓に左目をあてる。
その後4桁の枡の中に日頃重要ケースに使用している暗証番号を入力してみた。・・・・・

正面奥の分厚い金属の格子とガラスブロックで作られた壁のように見える
スライドドアが音もなく左右に開きエレベーターホールが現れた。

「それでは私が命じられています手続きに従いご案内いたします」
といいながらエリックが先に立って案内をする。「エレベーターは左右に2機ずつございます、
いずれのエレベーターも呼び出しボタンのうえの手の形の描かれたボードに
予め登録された掌紋をかざしませんと開きません、
ラウル様の右手の掌紋はオールマイティーでございますが・・・」
「本日ただいまはラウル様以外開く事ができません」
「ただ居室から、訪問者を確認して開くことはできます」
エリックは右手に持ったマニュアルのような冊子を見ながらしきりに肯き、
また続ける「右奥のエレベータは9階と最上階専用でございます」
「ラウル様の「お住まいと聞いております」
その外のエレベーターはラウル様、
もしくはラウル様がお許しになって掌紋登録なさった方以外は
予め許された階にしか止めることが出来ません」

「えー、右手前のエレベーターは7、8、階用、・・左奥は4,5,6階、
そして左手前が2,3階用となっております」
エリックは汗を拭きながらの説明だった
「一応ここまででございます、後のことは私どもの知る必要のないことで、
こちらの封印をされておりますラウル様用のマニュアルをご覧ください」
「私の勤務は午後7時まででございます。そのあとは最新技術の警備システムに引き継がれます」
「それと私の契約は向こう2年となっております」

「それでは私は玄関ロビーに戻らせていただきます」
エリックが出て行くとまたエレベーターホールのドアが閉まり
ブライアンが一人そこに取り残された。
ブライアンは意を決し、右奥のエレベーターのボタンを押しボードに右手をかざした。
ドアが開き「お帰りなさいませ、ブライアン・ラウル様」
とエレベーターがアナウンスし一気に9階に駆け上った。
扉が開くとエレベーターホールの向こうに、
頑丈そうな金属と木を張り合わせたような入り口扉があり、
その右横やや上のほうにまたあの掌紋照合ボードと暗証番号のための小さなキーボードがついていた。
ブライアンがボードに右手をかざし4桁の暗証番号をおすと、
カチッという開錠の音がした。扉の先はかなりのスペースのエントランス、ホールになっており、
無論人の気配はまったくなかった。

その階にはダイニングルーム、リビング、台所、書斎が配置され、
ダイニングルームとリビングからは250平方メートル以上はありそうな
ルーフテラスにでられるようになっていた。
テラスからは遠くロスのダウンタウンが一望に見渡せ、
高台のため、将来にわたってその眺めをさえぎる建物も立つ可能性がないようだった。
ブライアンは上の階のすばらしい寝室、
とまだ何も家具を入れていない大きな3つのベッドルームを確かめると。
通りに残してきたエリザベスのことを思い出し、
少し急がなければと感じ出していた。
ブライアンは先ほど9階に上がるため、エレベーターに乗り込んだ時、
回数指定ボタンの上に薄く描かれた手形の表示に
何気なく右手をあてがった時に飛び出してきた地下3階の指示ボタンが気になっていたのだ。
ブライアンが乗らない限り地下3階には行けないのだ。
地下3階・・・重要な何かはそこにあると感じていた。

ブライアンはエレベーターに乗り地下3階に下りていった。
地下3階はまさに巨大な金庫室だった。
2回の掌紋、網膜照合、最重要時にブライアンが使用した6桁の暗証番号入力で
やっとここが本当の金庫室と思われる場所に到達した。
これほど厳重な金庫室も考えにくいと思えるほどのその一角に足を踏み入れた
ブライアンはいくつもの信じられない情況を発見したのだった。
頑丈そうなテーブルのうえにRIGHT&SECURITYと書かれた金属版が浮き出た
縦40CM、横60CM、高さが30CMほどのほとんど
全体が金属でできていると思われる箱が置かれていた。
その中にブライアンが見つけたのは・・・・
ブライアンのソシャルセキュリティーカード、運転免許証、
そして、ここの建物やそのほかの不動産に関すると思われる権利関係の書類だった。


明らかにこの建物はブライアンの所有するものとして登記されていた。
そして建物の管理、維持に関する書類、それらの費用を賄う信託基金・・・に関する
・・・・・・それに12もの銀行に分散されそれぞれ
1千万ドルから3000万ドルの残高を示す、預金証書・・・・
「ソシャルセキュリティーカードも・・・・・免許証もなにもかもすでに用意されていたのだ」
・・・・しかもその名義は苦労して手続きをし
アトランタからもって帰ったものと全く違いがないようだった。ブライアンは一瞬呆然としていた。


アトランタの市役所での超能力を傾けたつもりの手続きや免許証に関しての面倒
・・・・あれはすべて不必要なことだったのだ・・・・・・・

そしてさらに壁に沿って並べられた、いくつものテーブルに積まれた、ジュラルミンケースの山、
簡単に開いたそれらのケースにはギッシリと現金が詰まっていた。
どのケースも・・・どのケースにも・・・・
そして、やはりジュラルミンケースに詰められた米国債、
現金だけで50ものケースがあった。

全部のケースはあけなかったが、多分1億ドル位か、額面1万ドル単位の国債は
2億ドル分はありそうだった。壁に何十も埋め込まれた小さなひき出し式の貴重品入れ、
といった感じのものにはそれぞれ、
どれほどの価値のものか想像もつかない宝石、貴金属類が収められていた。

ブライアンは「とりあえず金庫室を見るのは今のところ、ここまで」と決め、
地下3階から1階にあがる。

ブライアンは元の受け付けカウンターのような場所に
もどっていたエリックに向け声をかけた。

「婚約者が通りで待っている、
車をガレージに入れたいけれど何処で開けるんだい」と聞いてみる。
「ガレージは車にオープナーがついていませんのでしたら、
ここで開けられますが、・・・・
それとエレベーターホールに入る手続きは1階と同じでございます」
とエリックの答えが返ってきた。「それじゃすぐそこに止めてあるジープチェロキーだから頼む」
というと外の通りに出た。
ブライアンが助手席におさまると「結構時間がかかって、心配したわ、どうだった」と尋ねてくる。

「まずこのビルの地下駐車場に車を入れよう、話はそれからだ」
というとエリザベスを促した。エリックがシャッターを開け、
二人は車ごと建物に入った。ガレージはかなり広く4,50台の車が入れそうだった。
エレベーターホールを示す案内板の脇にテーブルが置かれ
そこに5台分のガレージオープナーが用意されているのが目に付いた、
ブライアンはそのうち3個をチェロキーの後部座席に放りこむと、
エリザベスの手をとり、エレベーターホール
の前に1階と同じように設置されたセキュリティーコントロールボードに向かい
「確かここを開くだけなら、暗証番号の入力のみでOKなんだよな」
とつぶやきながらキーボードを操作していた。無事扉が開きエレベーターホールに入ると、
1階と同じように並んだ4機のエレベーターの右奥を目指しボードに右手をかざした。
訳がわからず尻込みしそうなエリザベスの手を無理やり引くようにして、エレベーターに乗り込むとまた「お帰りなさいませブライアン・ラウル様」とエレベーターがアナウンスする。
もう何がなんだかわからないという顔のエリザベスの前でエレベーターの扉が開き、
さらにブライアンの掌紋、暗証番号で二人は9階の部屋に入った。
「ここは何だったの、どうなってるんだか全然わからない」と
混乱した様子のエリザベスをダイニングルーム、リビング、台所と案内しながら
「ここがどうやら、僕の、僕と君の家らしいんだ、
この建物全部が僕の名義になっているんだ、信じられないような話だけど、
金庫室もあった、ここの地下にね、そこにはすべて用意されていたんだ」
「ソシャルセキュリティーカード、免許証、
僕名義の巨額の預金証書、現金、債権、宝石、貴金属類」
「そうだまだ時間は、・・・4時半だね、僕もまだ見ていない階を一緒に見てみよう、
まず8階だな、エレベーターで8階に降りると
そこは特にセキュリティーが施されていない様子で、
小さなロビーの半透明のガラス扉を抜けると、通路の奥にスイミングプールがあった。
プールは25メートルの4レーンで美しいタイル張りの壁、水中を照らす光に映える
濃い水色の底がすばらしかった。
一段上がるようになったプールの手前の通路には、
更衣室やシャワー、ルームジャグジーバスなどが並んでいるようだった。

次に7階に降りようとエレベーターホールに出ると今乗ってきたエレベーターのゲイトが
消えて唯の壁になっている。ブライアンにはその意味がすぐわかった。
消えてしまったエレベ−ターに驚いているエリザベスに一寸待ってといいながら、
あるべき筈の位置にブライアンが立つと壁に薄く、
右掌の形が現れるブライアンがそこに右手をあてがうと壁が左右に割れ
エレベーターが現れた。
ブライアン以外はそのエレベーターに乗れない仕組みが徹底されているのだ。
7階にはトレーニングルームとそれを囲んだランニングトラックが。

6階には普通の家族が十分快適にすごせそうな、
それぞれ3つベッドルームのあるコンドミニアムが3室並んでいた。
5階から下は殆ど唯の空間になっており、まだ用途を決めていないという状態だった。
「そうだ君の掌紋、網膜、君の暗証番号を登録しておこう」
エリザベスはまたブライアンに引きずられるような思いを表情にみせながら、
1階のエレベーターホールを出たところのあのセキュリティーコントロールボードで登録をすませる。
「これで君も専用エレベーターを使えるようになったわけだ」
 「 そうだ、一応エリックに紹介しておこう」
というブライアンに腕をとられエリザベスが金属製の壁の前に立つとまた
あのきしむような音と同時に壁が左右に割れ明るい玄関ロビーが目の前に拓ける。

壁はエリックが気をきかせ、閉めておいたのだった。
ロビーのソファーに10人以上の男女が座り一斉にこちらを向いて注目し、
なかの二人は立ち上がってこちらに向かってくる。
皆、かなり立派な身なりをしていた。
「ブライアン様申し訳ございません、
お探ししていました、こちらの皆様は銀行の支店長さん方で、
私がブライアン様に申し上げるのが遅れてしまったんでございますが」

「ブライアン様が少なくとも今日の夕方あたりにはこちらへ戻られる
という情報がありましたようで先ほどそろってお見えになられました」
「一応私が用向きを伺いましたんですが、各銀行さん皆同じで、
ご預金の継続とご不在の間の金融統合でいくつかの銀行が一つになったケースのご確認を
お願いしたい、といった事のようでございます」
ブライアンとエリザベスの盾になるような位置で長々とエリックが説明する。
    
「失礼、MRラウル、失礼MRラウル」いつのまにかブライアンのすぐ脇に
ブライアンと同じくらいの背格好の初老に見える男が立っていた。

「エリックここはもういいです、
もっと早く来て先に私からご説明した方が良かったのかも知れないんだが、
このタイミングでここに現れろという・・・指示だったんでね」

「MRブライアン、良くおわかりにならないでしょうが、
あちら、でご説明いたします」
「私はクリストファー・パーマー、これまで貴方様の代理人、
後見人を勤めさせていただきました」「詳しいお話は後ほどさせていただきます」
そう言うと、「ちょっとお待ちください」とブライアンに断り、
ロビーのソファーとその周辺で成り行きを見つめていた10人ほどの男女の方を向き
「MR ラウルの顧問弁護士のパーマーです」
「皆さん今日のところはここでお引きとりください、
皆さんのご要望はわかっております、まず当面皆さんにとって問題は起きないと申し上げておきます」
「念のためネームカードをいただければ、
近いうちMRラウルと一緒に必要なものをそろえて伺いますので」
弁護士のパーマーと名乗った男が殆どの人間と

すでに面識があるという表情でネームカードをそこに居た全員と交換した。

それで納得したらしい“各銀行の支店長さん達”は建物を出ていった
ロビーにはブライアン、エリザベス、とエリック、
そしてパーマーと名乗った男が残った。
「MRラウルこちらの建物へのあらゆる出入りに関しましてはほんの先ほどでございましょうが、
貴方様が掌紋、網膜照合と暗証番号の設定をなさいますまで、
私がすべてをお預かりしていました」
「この建物の1階にいくつか接客室がございます宜しければそちらですべて、
ご説明いたします、完全にご納得なされるかどうか私も自信がございませんが」

「いかが致しましょう、ご婦人はガラスで仕切られた
手前のスペースでお待ちいただくということで、・・・・

ラウル様の姿が見えるところでしばらくお待ちいただく
というのはいかがでございましょう」
弁護士パーマーがエリザベスに顔を向け申し訳なさそうな仕草をする。

「エリック・・玄関扉をロックしてくれませんか
今日はもうこちらが歓迎できない客以外はここに来ませんから」

というとパーマーが「差し支えないようでしたら、こちらのご婦人をご紹介いただけますでしょうか」
とブライアンとエリザベスにまた申し訳なさそうなへりくだった態度で口をひらく。

ブライアンがエリザベスの表情を気にするように
「・・僕の婚約者なんだ、エリザベス・アンダーソンさん、・・・・
話は一緒に聞かないほうがいいのかな」

「はい、私にも良く判らないのですが、これからのお話はMRラウル、
貴方さま一人にしか、話さないという事になっておりまして」

「MRラウル 貴方様が後のちどのようにお話になるかは
私の口をさしはさむことではございませんが」


3人はエリックの控えているカウンターに向かって左手の方に進み、
接客室と説明された一角に入った。
エリザベスを手前の部屋に残しブライアンはパーマーに促され
奥の部屋のソファーで彼と向かい合っていた。

「何からお話していいか・・・・」
「私にとってこれは世にも不思議な物語ともいいますか、
・・・ラウル様、貴方様を含めラウル家の3人、ご両親を入れてですが、
あの悲劇的な9・11の事故、・・事件にあわれました、
ところがあの事件の4日ほど前、私の夢枕に大人になられている貴方さまが現れたのでございます」
「そのときは、お姿はハッキリしませんでしたが、今にして思いますと、
全く貴方様そのものでした」

「そこでアトランタのラウル一家が悲劇的事件にあうが息子さんのブライアンは死なない。
乗客名簿に名前は載るが、戸籍を抹消させてはならない。
このことは、君が主張すれば嘘のように簡単に認められる、
ブライアンは父親のすべての財産をひき継がなければならない」
「またブライアンは32歳でこの世界に帰ってくるというお告げでした」

「そのとき私は奇妙な夢を見たのだと思いそのまま朝まで眠ってしまったのです」
「ところが朝になりましたら、夢のなかで貴方様が約束された、
必要事項を書いたメモと私のための現金100万ドルがすぐそばのテーブルに置かれていたのです」

「まだ駆け出しの弁護士だった私にとって100万ドルはすごいお金でしたが、・・・・
それよりも私自身の心が完全にコントロールされている感じでした。
私はあの事件に先周りしてアトランタに飛び、父上とも会いました」
「予め父上の名前の遺書をつくり、
なにかがあれば、すべての財産を息子のブライアンさまが引き継ぐ、
ブライアン様が成人なさるまでは私がブライアン様を引き取り、お預かりし、
また財産を管理するというようなものです」
「突然の話でお父上がどのように対応されるか不安でしたが、
当然のことのようにお父上はサインなさいました」


「同時にこれまでの顧問弁護士をその場に呼ばれ、
今後私に協力するように、また協力に対する報酬として、100万ドルの小切手を切られました」
「その後事件が起きたのです、新聞に犠牲者の名前が載ってしまい、
そのなかにブライアン・ラウルというお名前もあったのです」
「ほんとうにどうしようかと思いましたが、
アトランタの戸籍関係のセクションをまるめこんで
ブライアン様はあの事件の機には乗っていなかった」

「実際は飛行機の出発直前に・・・チームが奇跡のように勝ち残ってしまったため
どうしても出たいフットボ−ルの試合が組まれてしまい、
そのため事件にあった便の出発地ボストンには行かず、
急遽翌日の便であの事件にあった機の到着地ロサンゼルスまで私がお送りして
そこでご両親と落ち合う約束になっていた」

「そのため悲劇の機には乗っていなかったと説明したのです」
「悲劇にあってしまった機はボストンから飛び立っていますが、
どういう訳か、息子さんの名前が搭乗者名簿に載ってしまったのだという説明も通ってしまいました」


「勿論私が弁護士でありブライアン様の後見人に指名されていることを証明した書類
なども見せたと思いますよ」

「あの辺の私の行動は貴方様に完全にコントロールされていた感じでした」
「その後しばらく貴方様は現れませんでしたが、
ラウル家の財産の把握、維持管理は他に自分の仕事を拡げられないほどの数ヶ月を私に強いていました」
「さすがに、今後のことも含め不安な気分がし始めたその頃、また貴方様が現れたのです」
「そのとき初めて、『君が将来会う事になるブライアン・ラウルは私自身ではなく、
私の分身である、君は彼にその日までの出来事を説明してやってくれ』というのです」

「そしてそのあと私の目の前に600万ドルの現金が積まれました、
突然出現した恐ろしいほどの現金の山です、
そしてその中の100万ドルは報酬として私に支払う、
残りは工夫してブライアン名義で銀行に預金するようにとの命令でした」
「父上の財産が大きかったので、・・・・
そうその頃でも何もかも合わせれば3億ドル位はあったと思います。大変なお金持ちだったのですね」
「というわけで新しい現金を預金に繰り込むことは何も不自然なことになりませんでした」
「その後も頻繁に現金、債権が私のところに持ち込まれ、
正規の銀行預金と銀行の貸金庫の中身という形で財産は増え続けました」
「そして9年前この場所にお屋敷を建てることになったのです」
「ここの地下3階の巨大な金庫室には私以外は入れませんでした」

「今はもう私も貴方様と一緒でなければ入れないようになっているはずです」
「良くご覧いただけばお分かりだと思いますがこの建物は
背後の巨大な岩盤に沿うように建てられておりまして、
正面からは10階建て、背面に廻ると6階建てとなっております。
そのため形だけですが5階にもエントランスが設けられております」


「ただしこちらは通常使用できないようになっておりまして、・・・・
詳しいことはエリックがお渡しした筈のマニュアルをお読みくださいませ」

「ですからもう確認されたと思いますが、
地下3階の秘密地下金庫フロアは岩盤のなかに位置しておる訳ででございます」
「まず存在を知られる事もないと存じますが、
専用エレベーターにMRラウルが乗られて、
掌紋を照合したときしか地下3階を指示するボタンも現れません、
現段階ではそのようになっている筈でございます」
「ほんとうに凄い金庫室です、しかもこの後私は、
この建物を出ると金庫室の存在を忘れてしまうことになっていますそうで」

「7年前にこの建物が完成してからは、私も知らない間に、
また信じられないほど金庫室に現金、債権、宝石類が増えているようです」
「もうまるで、魔法の世界のようで、恐ろしいほどでございまして、その辺りには感知しないようになりました」

「銀行関係についても特に問題が起きない限り・・・・
なにも触らない事にしています」
「金融統合などでいくつかの銀行が一つになっているケースも2017年の7月頃に
ご本人がお帰りになってすべて処理なさるだろうと、必要な人間を掴まえ説明しておきました」
「今日は多分エリックがラウル様が無事お帰りになりました、
という報告を不動産管理会社に入れたのを、キャッチして、
銀行の支店長が押し寄せたのだと思います」
この辺りの支店に殆ど銀行口座を集約させておきましたので」
「1支店あたり1000万ドルから3千万ドルの安定預金、
金融統合の関係で4000万ドル、5千万ドルになるところもありますが、
大変な重みでしょうから預金者の面識を得て今後のご愛顧をお願いするというのは
彼らにとって当然の事だと思います」「私の話はざっとですがこんなところでございます」
パーマーの話に一区切りがついたところで、ブライアンは静かにパーマーの顔を見やった
今こそパーマーに隠し事がないか意識を探ってもいいと感じたのだ」
「パーマーがほっとした気分でいるのが意識の表面に浮かんでいた。

ただ、ブライアン自身の出現で幻の神のようにぼんやりとした形であっても、
何度も何度も現れた神のような存在が今日からは現れない、
もう自分は自由だと感じていることは感じられた。

パーマー自身新しく現れた生身のブライアンを裏切るような考えは持っていないようだったが、
これまでのように真剣に口を閉ざしていよう、

という決心が緩んでしまったのも明らかに感じ取れた。
「MRパーマーこれまでの事はご苦労でした。またこれからも宜しくお願いしたい。
3,4日のうちに、こちらから連絡をとります。必要な行動を貴方と一緒にとりましょう」
というとブライアンは携帯の番号、とエリザベスのコンドミニアムの電話をメモしパーマーに渡す。



引き換えにパーマーのネームカードを受け取った。
「MRパーマー」とブライアンが改まった口調になり

「余計なことは決して人に漏らさないように、

・・生身のブライアンは貴方の前にこれまで、
幻のように現れたブライアンよりもこの世界では力を持っているのです。
心の奥にこのことを刻んで、私に言われたという事実は忘れなさい」

パーマーが凍りついたようにブライアンを見つめ
「今後も慎重に、すべてを処理して参ります、有難うございました、
何かありましたら夜中でもなんでもそちらの事務所、
或いは携帯の番号で呼び出してくださいませ」・・・

ブライアンはエリア60の実験施設から
この世界に転移したあの僅かの時間の意識を急に思い出していた。
ソシャルセキュリティーカードのこと、運転免許のこと、
自分名義の充分な預金や、その他の資産、理想の女性・・・とあらゆる身勝手な空想が頭の中を駆け巡っていた。
広い意味での自分自身の居場所も含め、ありとあらゆる世俗的欲望が
実現して欲しいという夢想を抱きながらのあの瞬間だったような気がしてきた。

ブライアンが念を押すように
「3,4日後と言いましたが」
「時間に追われているわけではありませんから、
この後のことは・・・明後日の金曜が独立記念日でしたね、
その後の7月7日月曜日以降にこちらの都合で連絡を入れます
貴方は月曜日以降待機してください、いいですね」とやや命令口調で言い渡した。

ブライアンの言葉にパーマーは「はい、かしこまりました、
それでは失礼申し上げます」と言い残すと、
恐ろしい場所から早く遠ざかりたいというような様子で
そそくさと部屋を出て行ってしまった。

ブライアンはエリザベスの所に戻り
「素敵な食事のあとで南の島に飛んでいこう」とささやいていた。
腕時計をみるとそろそろ夕方の6時だった。
ロビーにパーマーの姿はなくエリックがパーマーから何を言われたのか
妙にかしこまって
「ブライアン・ラウル様、後1時間ほどで私はこちらでの勤務が終わります」
「そこの表の扉はすでに掌紋、網膜、暗証番号を登録なさっておられるお二人には
自動的に開くそうでございます」
「セキュリティ・コントロールボードのあるところに進まれるのも同じだそうでございます。
私はそこの表の扉の鍵だけお預かりしております。
今後建物の管理、維持の際の人の出入りもお二方のご裁量なしでは
かなわぬということでございます」
「どこかで、その辺のことについて弁護士のパーマー氏ともご相談になり、
建物の維持管理に必要な権限委譲、
無論直接私を派遣しております管理会社とでも結構なんでございますが、
今後、この建物の維持管理をどうなさるのか、お考えくださいませ・・
これは会社から私にこうお伝えしろとの命令でございまして、他意はございません」
というとため息を付きそうにしてあのカウンターに戻っていった。

ブライアンはエリザベスの腕をとると「夕食の時間にはまだ間があるね、
僕自身が知らなかった僕の家を住まいの部分だけでももう一度見てみよう」
というと二人でエレベーターで9階に上がりリビングからテラスに出た。
「ロスの街のかなりの部分が見渡せるわ、ほらあっちのほうは私のコンドミニアム、
やっぱりよ、あの方向かなり遠いけれどかすかに海も見えているみたい」

「それにここは飛行機に乗った人が覗くのでもなければ
何処からも見られることがないわ」
エリザベスが夢中になったようにテラスを一巡りする。
建物の後ろもはるか向こうの高台以外なにもここより高い建物もないの、
凄いところ、なんだかこれからハワイに行くよりここで過ごしたいくらい」
「でもMAIとは約束だし、・・・それであのパーマーとかいう弁護士は何て言ってるの」
「何から話せばいいか、・・・詳しい話はおいおいすることにしよう。
今は簡単な説明で納得してくれるかい」

「じゃあ、その簡単な説明をきかせてもらえる」
「わかった、僕はなんと、あのアトランタのブライアン・ラウルその人
ということらしいんだ」

「だって彼はあの時死んでしまって、それで貴方が・・・・」
「頼むから、話を続けさせてくれないか、そうでないと、
夕食の時間も無くなってしまう。・・・」

「神のお告げに従って、あの弁護士が『ブライアンは生きている、
あの飛行機には乗っていなかった今は自分が後見人となって預かっている』
とアトランタの役所で主張した、彼がまだ駆け出しの頃だね、
そして実は恐ろしいほどの金持ちだった父親の遺産を相続させた」

「7年前にこの家を建て地下の金庫室に神が次々と
そこに財宝、現金、債権を蓄えていって僕がこの世界に現れるのを待っていたということなんだ。
どこからどこまで、ここの建物、秘密の財産、たぶん他の不動産なんかもあるだろう」

「アトランタでみた元ラウル家のと思った凄い屋敷も僕のもの・・・・もうさすがに・・」
「今日はこれくらいにしておこう・・・」

「ネエ貴方、ワイキキの浜辺にそっと飛んでいくのは、
こちらの時間で11時頃がいいわよね」
「提案だけど、私、夕食をここのテラスでしたら、と思うの、
夜景が凄くきれいだと思うし、
それにここのガーデンテーブルも、配置されている植栽からなにからなにまで、
本当に素敵、誰がこんな風にこのテラスを造り上げたのかしら」
「植栽への散水も自動なのよ、本当にたいしたものだわ、
それはそうと、私ここに来る途中素敵なモールを見つけたの」
「多分車で10分も掛からないわ」
「あそこで、必要なものを沢山買い込んで二人のパーティーをここでやりましょう」
ブライアンが反対する理由はなにもなかった。
新しいブライアンの家を初めから気持良く受け入れ、
楽しんでくれようとするエリザベスの心が奇跡と思えるほどうれしかった。

特に料理らしい料理はなにもなかったが、
いつでも使用できるよう用意されていた
バーベキュー焜炉の上で塩、と胡椒だけの味付けで焼いた最高級のビーフ、
そして最高級のスモークサーモン、キャビア、ワイン、イチゴ、マンゴ
それにこれこそ飛び切り上等のロスの夜景を
メインディッシュとしたその夜の食事は
夜11時と決めていたワイキキへの移動も忘れさせそうだった。
「ワイキキにコンドミニアムを確保してあれば、明日の朝の移動でも良かったのね」
エリザベスが残念そうに言う。
「今日は身の回りのものを整えておこうね」
「ハンドバッグを忘れずに」

二人がワイキキの浜辺の暗がりに誰に見られることもなく現れたのは現地時間の午後8時丁度だった。
また同じホテルに泊まろうとして一瞬エリザベスがあわてた声を出す
「MAIに会っちゃうかしら、でもいいんだわ、『何とかなると思ってキャンセル待ちで飛行機に乗ったりで、
ホテルに予約も入れてない。
あの一番高いお部屋でいいけれどなんとかなる?』って聞けばいいの」
ホテルのカスタマーカウンターにMAIはいなかった。
この前と同じスイートが今回も空いており二人はすぐにそこに落ち着いていた。



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